ご当地ずしの魅力
第5回 変化するすし
第5回目は、「変化するすし」をご紹介します。
すしというものはたくさんの変化を起こしています。「作ったら早く食ってくれ」といわれる握りずしも、もともとはできあがるまで何ケ月物もの月日を要していたんですから。
すしの「第一革命」は発酵ずしの頃、室町時代に起こった「ご飯も食べるようになった」という変化でした。続く「第二革命」は、酢に出会ったことでしょう。ここまでの革命とは「すしを早く食べたい」、すなわち「より早くすっぱくしたい」ために起こったんです。ところがすしの「第三革命」は「もっとラクにすしを食べたいよ」という声でした。
押すのだって「桶より箱」、「箱より簀の子、ふきん、いや、手だ!」。「めんどうだ、いっそ押さないですしを作っちまえ!」 こうして、発酵させて酸っぱくしたすしは、酢を使って箱で押すすし、果ては混ぜるだけで押さないすしへと、姿を変化させていったのです。
新潟県 サケの飯ずし
サケは東日本の、とりわけ日本海側でよく水揚げされます。もちろん新潟もそのひとつで、当然、そこにはサケを使ったすしがあります。ですが古くから家庭で作っているサケのすしといえば、今、回転ずしでよくまわっている握りずしではなく、サケのイズシ。サケをご飯と糀、野菜や香辛料と一緒に発酵させたものです。サケの身、のみならず頭の骨「氷頭(ひず)」までも、切ってすしに混ぜてしまいます。
長野県 笹ずし
地元では「謙信ずし」とも呼ばれ、「上杉謙信が兵糧食として戦場で用いた」と伝えられていますが、このすしは酢を使っていて、戦国時代には、このようなすしはまだありませんでした。昔は発酵させていたかもしれないことは、このすしが笹の皿を集め、きっちり箱に詰めて十分な押しをかけていることからもわかります。中に入れる具が山菜やキノコ、漬け物など質素なのも、兵糧食から発達したなごりかもしれません。
静岡県 原保ずし
原保は伊豆市の地名です。ここのおすしはキリダメと呼ばれる浅い箱にすしご飯を詰め、軽く押さえたあとに具を乗せるもの。しばらく置いたら、ヘラで切って食べます。宴席には箱のまま出し、客が好きなときに好きなおすしを食べられるわけです。昔は箱の中のすしはふたでしっかり押さえ、抜き出して切った箱ずしだったのでしょうが、「もっと簡単に」ということで、各自が自由にとるようになったと思われます。
三重県 手こねずし
箱ずしを簡略化して、ふたでしっかり押すことも包丁で切ることもなくし、さらには押さえる行程をも略すと、ちらしずしになります。すしご飯に具を入れて、混ぜたらできあがり。簡単でしょう? 混ぜる具もいろいろで、ニンジンやシイタケなどの精進ものあり、刺身などのなまものあり。写真は三重県志摩地方の手こねずし。しょうゆにつけたカツオの刺身を手で「こね(混ぜ)」ますが、マグロなども使うそうですよ。