ご当地ずしの魅力
第10回 すしご飯を使わないすし
第10回目は、「すしご飯を使わないすし」をご紹介します。
すしとはどういう料理ですか? これの答えは、発酵させようが、酢を使おうが、結局は「酸っぱくなったご飯を使う料理」ですよ。
しかし世の中には、「酸っぱいご飯を使わないおすし」というのもあるんです。
「あ、むかしの人はお米が食べられなかったんだ。だからその代わりに、何か別のものを入れたんだな」ですか?
まぁ、そういう「飢饉食」というものもありまして、たとえば第二次世界大戦中などに、お米を使わない料理がたくさん紹介されたりしました。しかし、江戸時代の文献を読んでいますと、どうもそうではないようです。
ご飯の代わりにオカラやサツマイモを使っているのですが、その紹介ぶりが、どこか楽しそう。楽しんでいたのでしょうかねぇ。
埼玉県 きらずずし
「ノリマキラスシ」ってご存知でしょうか? 海苔で巻いた「きらず(オカラのこと)」のおすし、って意味で、江戸後期の文献に出てきます。シャレですね。これと同じすしが、埼玉県北部で作られます、いや、作られていました、の方がいいのかな。芯はニンジン、ネギ、油揚げなどで、オカラの煮物と同じようですが、ここに酢を入れてひと煮立ちさせ、海苔巻きのご飯代わりに、オカラを巻き簀で巻くのです。
広島県 卯の花ずし
鵜飼いで有名な三好市で、江ノ川のアユをすしにします。もともとはご飯のすしを作っていたのですが、日持ちさせるためにオカラを使うようになったといいます。ですからオカラには何も入れず、入れても麻の実や刻みショウガくらい。これをアユの中に入れるのですが、このあたりは腹開きと背開きとが競合しているのです。日持ちは、数日は大丈夫。食感は、ご飯よりも軽い感じがして、もう1匹余分に食べられますよ。
愛媛県 いずみや
愛媛県では各地でオカラのすしが作られます。南予地方では姿ずしを「丸ずし」、握りずしを「ほおかむり(オカラを魚で巻いた形がほおかむりに似ている)」と呼びますが、中予から東予地方では握りずしで、「いずみや」という謎めいた名前があります。これは江戸時代に発見された別子銅山の開拓者が大阪の住友家で、屋号を「泉屋」といったためでした。すしの魚はタイ、サヨリ、コノシロなど。上品な味わいです。
和歌山県 めはりずし
これも握りずし、なんですかね。握りが大きくて、食べるときに目がピッと張りますから「目張り」と名づけられたとか。和歌山から奈良、三重の山間部に見られますが、最近ではドライブインなどでも見かけるようになりました。ふつうのおすしに見えますが、じつは、中のおにぎりには酢が入っていないこともあるんです。酸っぱくないおすしですね。山の中で、木こりたちの弁当として用いられたころの話です。