facebook line

続・世界の寿司学入門

第2章|SUSHI大国・アメリカ最前線

SUSHI大国・アメリカ最前線

アメリカにおけるSUSHIレストランの分布(2026年7月時点)

現在、アメリカにはおよそ26,000店もの日本食レストランが存在するとされています※1。なかでもSUSHIレストラン市場は、2022年時点で約280億ドル規模に達し、この10年でおよそ2.6倍に成長しました※2。数ドルで買えるパックSUSHIから、一人あたり数百ドルのOMAKASEまで。SUSHIは価格帯も楽しみ方も大きく広がり、いまやアメリカの食文化に深く根づいた存在になっています。

前シリーズ「世界の寿司学入門(2) 北米におけるSUSHI発展史」では、19世紀末の日系移民の到来に始まり、スシロールや回転寿司の登場、サーモンの普及、SUSHI BARやOMAKASEの浸透にいたるまで、アメリカにおけるSUSHIの歩みをたどりました。本章ではその変遷をふまえながら、独自に発展したアメリカのSUSHIの現在を見ていきます。

日常食としての広がりと流通の発達

アメリカのスーパーでは、店内でSUSHIパックを作って売るカウンターが多く見られます。その代表的な担い手が、AFC(Advanced Fresh Concepts)で、スーパーや小売施設の中でSUSHIカウンターを展開するフランチャイズチェーンです。1986年にカリフォルニア州でSUSHI BARを開業してから現在に至るまで、米国、カナダ、オーストラリアなどで4,000店を超えるSUSHIカウンターを展開しています。また、アメリカ有数のスーパーであるクローガー(Kroger)も1,800店超でSUSHIを扱うなど、SUSHIは外食だけでなく、スーパーの総菜売り場でも日常的に手に取ることができる存在になっています。

スーパーの惣菜コーナーでSUSHIを取る男性
スーパーの惣菜コーナーでSUSHIを取る男性

こうしたスーパーにおけるSUSHIの広がりを支えているのが、魚介を安定して届ける流通網です。鮮魚を扱うには、仕入れから配送までの品質管理や衛生管理が欠かせません。とくに国土の広いアメリカで各地へ安定して届けるには、冷蔵・冷凍物流や空輸の整備が必要になります。そこで大きな役割を担ったのが、寿司店やスーパーなどへ魚介を供給する専門卸業者でした。トゥルー・ワールド・フーズ(True World Foods)はその一例で、北米を中心に約8,200店のSUSHI店やスーパーなどへ魚介を供給しています。また、同社のToyosu Expressのように、豊洲市場から日本の魚介を空輸で短時間で届ける仕組みもあり、アメリカでSUSHIや寿司が広がった背景には、こうした魚介流通の発達もあったからと言えるでしょう。

シアトルのパイクプレイス・マーケットに並ぶ魚
シアトルのパイクプレイス・マーケットに並ぶ魚

高級寿司OMAKASEの成立

スーパーでSUSHIが日常食として広がる一方、ニューヨークを中心に本格的な高級寿司としてOMAKASEが存在感を増していきました。OMAKASEとは、その名の通りコースの内容を職人に委ねる形式ですが、単なるコース料理とは異なり、少人数のカウンターで職人の技術を間近に見ながら本格的な寿司を味わうライブ体験は高級外食として相性が良く、主に都市部の食通層に受け入れられていきました。2011年のドキュメンタリー映画『二郎は鮨の夢を見る』は、高級寿司店「すきやばし次郎」の寿司職人・小野二郎を追った作品で、Netflixでも配信され、オバマ大統領が安倍晋三首相とすきやばし次郎を訪れるなど、OMAKASEへの関心を広げるきっかけの一つになりました。

ニューヨークのOMAKASE寿司レストランの寿司ネタ
ニューヨークのOMAKASE寿司レストランの寿司ネタ

OMAKASEはニューヨークに140店超、ロサンゼルスに80店超あり、2022年には「OMAKASE」がアメリカの辞書にも収録されるなど、一般的な用語として定着しました。こうした本格的な江戸前寿司の浸透を支えているのが、先にも述べた豊洲市場などの日本の市場から魚介を空輸する流通ルートです。生マグロやウニは冷蔵で、長期保存する冷凍マグロはマイナス60度の超低温で扱うなど、魚介の状態に応じて輸送方法は使い分けられ、徹底管理された状態で届きます。東京の競りからマンハッタンの店まで、直行便でおよそ36時間で届くようになり、日本とほぼ同等の寿司ネタを揃えられるようになったことも、アメリカで本格的な江戸前寿司が成立する条件の一つになりました。

ニューヨークのOMAKASE寿司レストランの車海老の握り※3
ニューヨークのOMAKASE寿司レストランの車海老の握り※3

東海岸の都市型と観光型

東海岸のニューヨークは、大手口コミサイトのSUSHIカテゴリの掲載店数が446店で、2位のロサンゼルスの328店を大きく上回ります。また、2025年版のミシュランでは、三つ星を含めた星付き寿司店が15店もあるなど、世界中の料理が集まる大都市の中で、SUSHIは圧倒的な需要と高い評価を持つジャンルとなっています。一方で、ニューヨーク市の人口は2025年推計で約826万人で、人口10万人あたりの寿司店は5.4店と一般的であり、店数が多い要因には人口規模そのものも大きく関係していることがうかがえます。

SUSHIレストランの店数と人口10万人あたりの店数

同じ東海岸でも、観光都市として知られるマイアミは139店ですが、人口10万人あたりのSUSHI店数は28.4店と高く、観光客やホテル、会食での需要が店数を押し上げていると考えられます。また、ボストンは82店で、ニューヨークほどの絶対数はないものの、人口10万人あたりでは12.2店と比較的高く、大学、医療、金融などで人の流動が多い都市らしい需要があります。このように東海岸では、ニューヨークやボストンのような「都市型」と、マイアミのような「観光型」が見られますが、その中でも経済の中心で世界の大都市として知られるニューヨークは、店数と本格的な江戸前寿司に対する評価の両面において突出しています。

マイアミビーチのSUSHIレストラン※4
マイアミビーチのSUSHIレストラン※4

西海岸・太平洋側に広がる日常型

西海岸、とりわけロサンゼルスは、ニューヨークと並ぶアメリカのSUSHIの中心地です。その背景には、リトルトーキョーをはじめとする日系移民の歴史があります。1960年代にロサンゼルスでSUSHI BARが開かれ、カリフォルニアロールのようなアメリカ生まれのスシロールが、この地域から世界へと広がっていきました。現在もカリフォルニア州は日本食レストラン数が約4,433店と全米最多で、ロサンゼルスだけでなく、サンフランシスコやサンディエゴなど、西海岸全体で多くのSUSHIレストランが見られます。

ロサンゼルスのSUSHIレストランのスシロール※5
ロサンゼルスのSUSHIレストランのスシロール※5

一方で、カリフォルニア州のSUSHIは店数では全米最大規模ですが、ミシュランに掲載される寿司店の評価は一つ星にとどまっています。つまり、ニューヨークほど本格的な高級江戸前寿司が浸透しているわけではなく、どちらかといえば、カリフォルニアロールをはじめとしたカジュアルなSUSHIが、日常食として浸透している地域といえます。
また、太平洋側のホノルルでは、人口10万人あたりのSUSHI店数が33.1店と非常に高く、日系移民の歴史を背景に、伝統料理ポケに代表される生食文化があること、観光地としてSUSHIの需要が高いことなどが要因と考えられます。このように、西海岸から太平洋側は地域の歴史や食文化を背景に日常型のSUSHIが広がりを見せています。

魚介の刺身を醤油や胡麻油などで和えたハワイの伝統料理「ポケ」
魚介の刺身を醤油や胡麻油などで和えたハワイの伝統料理「ポケ」

アメリカのSUSHI産業に進出する日本企業

イギリス編では、はま寿司を擁するゼンショーホールディングスがヨー!スシ(YO! Sushi)やタイコ・フーズ(Taiko Foods)を含むスノーフォックス・グループ(SnowFox Topco Limited)を買収し、現地で育ったSUSHI産業を取り込む動きを見ましたが、同じ流れがアメリカでも起きています。ゼンショーはスノーフォックスを買収する前の2018年に、アメリカでSUSHIカウンターを展開するAFCを約2億5,700万ドルで取得しており※6、現在はAFCやヨー!スシ、タイコ・フーズなど北米やヨーロッパにある多くのSUSHI関連企業を傘下のワンダーフィールドグループ(Wonderfield Group)に束ねています。

このように、アメリカで広がったSUSHIは、いまや寿司発祥の地である日本企業にとっても重要な海外事業になっており、2019年にはくら寿司USAがNASDAQへ上場、2026年秋にはスシローがニューヨークへ進出予定など、日本の大手寿司関連企業のアメリカ進出が続いています。さらに、SUSHIが産業として広がるなかで、寿司職人の需要も高まり、日本出身のアンディ松田によるSushi Chef Instituteのような寿司学校がロサンゼルスに登場するなど、いまやアメリカのSUSHIは食べるだけにとどまらない新たな段階へ進んでいます。

多様なアメリカのSUSHIたち

最後に、アメリカで見られる様々なSUSHIを見てみましょう。前シリーズでは、カリフォルニアロールやレインボーロール、スシブリトー、スシピザなど、アメリカ生まれの自由なSUSHIを紹介しました。これら以外にも、みじん切りにしたマグロにチリソースやマヨネーズなどを合わせたスパイシーツナロール、サーモンとクリームチーズを巻いたフィラデルフィアロール、アボカドやウナギを重ねて龍のように仕上げたドラゴンロールなど、さまざまなスシロールがあります。さらに近年は、日本の手巻き寿司をカジュアルなカウンター体験にしたハンドロールバーも人気を集めています。

スパイシーツナロール
スパイシーツナロール
ハンドロール
ハンドロール

一方で、アメリカのSUSHIはスシロールだけではありません。揚げ焼きにした酢飯の上にスパイシーツナをのせた一口サイズのスパイシーツナ・クリスピーライス。酢飯やカニカマ、マヨネーズを重ねて焼き、家庭やパーティーなどで取り分けて食べるスシベイクは、まるで洋風の箱寿司のようです。巻く、乗せる、焼く、揚げるといった手法を取り込みながら、寿司は海を越え、SUSHIとして、アメリカの食卓に根付いています。

スパイシーツナ・クリスピーライス
スパイシーツナ・クリスピーライス
スシベイク
スシベイク

アメリカにおけるSUSHIの未来

スーパーの総菜売り場に並ぶSUSHI、ニューヨークで発展するOMAKASE、ロサンゼルスを中心に広がったスシロールやスシベイクのような創作SUSHI、そして手巻きをカジュアルにしたハンドロールバー。そこには日本の寿司とは異なるスタイルもありますが、酢飯と具材を様々な方法で合わせて「酸っぱいご飯」を楽しむスタイルは、地域に根付いた寿司の姿の一つといえるでしょう。

アメリカに初の日本料理店が生まれてから、130年余りが過ぎ、SUSHIは日常食、高級外食、創作料理、家庭料理をまたぐ食文化へと育ちました。その一方で、巨大な市場になったからこそ、水産資源をどう持続させるのかという課題も生まれています。培養サーモンや植物性マグロのような実験的な試みも始まるなか、寿司をSUSHIとして世界に広げたアメリカが、次にどのような未来を見せてくれるのか、ますます目が離せません。

出典:
※1 農林水産省 「海外における日本食レストランの国・地域別概数」(令和7年11月28日)
※2 Statista 「Sushi restaurant sector market size in the U.S.」(原データ:IBISWorld)
※3 Photo by T.Tseng, CC BY 2.0, Modified from the original
※4 Photo by Phillip Pessar, CC BY 2.0, Modified from the original
※5 Photo by Thank You (25 Millions Views), CC BY 2.0, Modified from the original
※6 Masuda Funai 「Masuda Funai Advises Advanced Fresh Concepts Corporation on its Sale to Zensho Holdings for $257M」



寿司研究家・寿司ウォーカー代表
すしノスケ Sushinosuke
神奈川県ずし生まれの寿司研究家。慶應義塾大学経済学部卒業。『J.S.F.A 寿司検定 公式テキスト』総監修。寿司屋とIT企業での勤務を経て、魅力あふれる寿司の世界をすべての人へ伝えるために、寿司職人有志らと株式会社寿司ウォーカーを創業。

続・世界の寿司学入門
続・第1章|ロンドン発・イギリスのSUSHI事情 続・第2章|SUSHI大国・アメリカ最前線

世界の寿司学入門
第1章|アジアの寿司文化圏 第2章|北米におけるSUSHI発展史 第3章|南⽶を彩るSUSHIと移⺠の記憶 第4章|ヨーロッパのSUSHI事情
PAGE TOP