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世界の寿司学入門
第4章|ヨーロッパのSUSHI事情

世界の寿司レストランMAP(2025年12⽉時点) ※1

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SUSHIは1970年代以降、世界に広がる過程でヨーロッパ各地にも浸透し、都市を中⼼に定着していきました。現在では、⻄欧諸国の国際都市であるパリやロンドンに500店以上、ベルリンやミラノに370店以上の寿司レストランが存在していますが、ポーランドをはじめとする東欧諸国や郊外地域へも広がっています。

今⽇のヨーロッパでは、寿司レストランだけでなく、テイクアウトやデリバリー、スーパーマーケットのパックSUSHI、OMAKASEやケータリングなど、様々なかたちでSUSHIが消費されています。⼀⽅で、発展の⽅向性は地域によって異なり、東⻄ヨーロッパ内の差に加え、北⽶との間にも違いも⾒られます。

本章では、ヨーロッパにおけるSUSHIの定着と多様性を追いながら、欧⽶諸国におけるSUSHIの違いに触れ、グローバルに広がるSUSHIの未来について考えます。

⻄欧諸国におけるSUSHIの広がり

都市部を起点としたSUSHIの受容

ヨーロッパにおけるSUSHIの歴史は、1960年代後半〜1980年代にかけてパリやロンドンといった国際都市から始まります。⽇本との経済的・⽂化的な接点が増える中で、在留邦⼈やビジネス層を通じて⽇本料理が浸透し、SUSHIもその⼀つとして認識されるようになりました。

当初のSUSHIは⽇常⾷ではありませんでしたが、健康的なイメージなどから、都市部において徐々に受け⼊れられていき、⽇本料理の⼀部から料理ジャンルとしてのSUSHIが確⽴されていきました。特にパリやロンドンでは、⾷に対する関⼼が⾼く、新しい料理を積極的に受け⼊れる⼟壌があったことも、SUSHIの定着を後押ししました。

パリの街並みに並ぶ寿司レストラン ※2
パリの街並みに並ぶ寿司レストラン ※2
ロンドンに広がるスーパーマーケットのSUSHI売り場
ロンドンに広がるスーパーマーケットのSUSHI売り場

パリから始まったフランスのSUSHI

フランスでは、1963年にパリで開業したTAKARAなど、早い時期から⽇本料理レストランが存在していたものの、当初は主に在留邦⼈向けの限定的なものでした。1980年代に⼊ると、健康志向の⾼まりを背景にヘルシーという理由から徐々に⽇本⾷の需要が⾼まっていきましたが、SUSHIはなお⼀部の都市⽣活者に向けた限定的な異国料理として受け⽌められていました。

1990年代から2000年代にかけて、フランスのSUSHI市場は転換期を迎えます。健康的であるという理由からSUSHIの⼈気が⾼まると、中華料理店を経営していた中国⼈が、⼀⻫に利益率の⾼いSUSHIへ業態転換し始め、パリを中⼼に寿司レストランの数が急速に増加しました。また、同時にフランス⼈経営による寿司レストランも増え、SUSHIは⽇本⼈コミュニティの枠を越えて広がっていきました。

パリの⾼級ホテル内の寿司レストラン ※3
パリの⾼級ホテル内の寿司レストラン※3

フランスの⾷⽂化に溶け込むSUSHI

1998年、⼆⼈のフランス⼈がテイクアウトSUSHIチェーンのSushi Shopをパリで創業します。Sushi Shopはスシロールを中⼼にフォアグラなどの⾷材を⼤胆に取り⼊れた新しいスタイルのSUSHIを提供し、フランスにおけるSUSHIの⼤衆化とヨーロッパスタイルのSUSHIの定着に⼤きな役割を果たしました。その後、Sushi Shopは欧州⼤⼿外⾷企業に買収され、現在は世界中に170店舗以上を展開し、ヨーロッパのSUSHI市場におけるマーケットリーダーになっています。

⿂介を扱うコストの⾼さなどの理由から、SUSHIの平均価格はハンバーガーやピザの約2倍と⽐較的⾼価ですが、フランスのSUSHI店数はハンバーガー店と同程度にまで増えています。スーパーマーケットではSUSHIが多く⾒られ、Uber Eatsなどのデリバリーも⼤きく伸びており、若年層を中⼼にSUSHIは⽇常的な外⾷として定着しています。また、こうしたカジュアルなSUSHI以外にも⽇本のような本格的な寿司を提供するOMAKASEと呼ばれる⾼級寿司店も増えています。

ヨーロッパを席巻するSUSHIチェーンのSushi Shop ※4
ヨーロッパを席巻するSUSHIチェーンのSushi Shop ※4
2025年4⽉発売のSushi ShopのUMAMI BOX
2025年4⽉発売のSushi ShopのUMAMI BOX

ロンドン発・都市型SUSHIの定着

イギリスでは1980年代以降、健康志向の⾼まりなどを背景に、都市部を中⼼に⽇本⾷への注⽬が⾼まっていきました。こうした流れの中、1997年に⽇本の回転寿司からヒントを得た英国⼈実業家がロンドンでYO! Sushiを創業します。YO! Sushiは「⾼級でクールなロンドン体験」をテーマにした回転寿司チェーンで、エンターテイメント性のある少し⾼級な外⾷として⼤きな成功を収めました。

YO! Sushiは現在も100店舗前後を展開し、絶滅危惧種の⿂介を使⽤しないなど、サステナビリティを意識した姿勢でも英国のSUSHI業界を代表する存在ですが、2019年にはSnowfox Groupに買収され、合併後はカナダ発の Bento Sushiなどを取り込みながら事業を拡⼤。2023年には、はま寿司を展開する⽇本のゼンショーホールディングスの傘下に⼊り、今後の展開が注⽬されています。

パディントン駅構内のYO! Sushi ※5
パディントン駅構内のYO! Sushi ※5
ストラトフォード駅に隣接するモール内のYO! Sushi
ストラトフォード駅に隣接するモール内のYO! Sushi

2000年代以降、ロンドンではYO! Sushiに続く形で多くのSUSHI店やSUSHIチェーンが成⻑し、SUSHIは⼀般的な外⾷として広がっていく⼀⽅、⽇本のようなOMAKASE形式の寿司レストランやケータリング寿司も存在するなど、英国におけるSUSHIは⽇常⾷と⾼級料理の両⾯を持つ都市型フードとして定着しています。

⾼級寿司レストランのソフトシェルクラブを使ったスシロール(ロンドン)
⾼級寿司レストランのソフトシェルクラブを使ったスシロール(ロンドン)

統⼀後のドイツ社会に根づいたSUSHI

ドイツでは1990年の東⻄統⼀以降、都市部を中⼼に⽣活様式の⻄欧化と国際化が進み、⾷⽂化においても多様な外国料理が受け⼊れられるようになりました。その流れの中で、SUSHIもベルリンなどの⼤都市から広がっていきます。現在、ベルリンには約370店の寿司レストランがあり、ミラノ(イタリア)の390店、マドリード(スペイン)の367店と並び、ロンドンやパリに次ぐ規模の市場を形成しています。

また、⼤⼿⼩売スーパーによる店内SUSHIカウンターやパックSUSHIの普及により、ドイツのSUSHIはパンやサラダと並ぶ⽇常⾷として定着し、寿司レストランや回転寿司、テイクアウトやデリバリーなど様々なSUSHIが若年層を中⼼に消費されています。 ⼀⽅、ヨーロッパの「リトル・トーキョー」とも呼ばれるデュッセルドルフでは、ヨーロッパ有数の⽇本⼈コミュニティを背景に、⽇本に近い⽔準の寿司を楽しめる環境が整っています。

ベルリンの回転寿司レストラン ※6
ベルリンの回転寿司レストラン※6

東ヨーロッパのSUSHI

東欧諸国とポーランド

東欧諸国では1990年代以降、冷戦終結後の経済⾃由化と世界的なSUSHIブームが重なり、ポーランド、チェコ、ハンガリーといった都市部で寿司レストランが急増しました。 SUSHIの普及が少ない国の1つであるベラルーシさえ、⾸都に27店の寿司レストランが存在するなど、東ヨーロッパ全体でSUSHIは⼈気料理となっています。

なかでもポーランドは、⾸都ワルシャワに200店以上の寿司レストランがあり、他国を⼤きく引き離しています。東欧全体ではスシロールを中⼼としたフュージョンSUSHIが主流ですが、ポーランドでは⽇本式の寿司も多く⾒られ、握り寿司や押し寿司を教える寿司学校も存在するなど、東欧を代表するSUSHI⼤国となっています。

ワルシャワの街中の寿司レストラン ※7
ワルシャワの街中の寿司レストラン※7

経済開放とともに普及したロシアのスシロール

ロシアにおけるSUSHIは、1980年代に富裕層向けの⾼級料理として始まりましたが、1991年のソビエト連邦崩壊と経済開放を契機に急速な⼤衆化が進みました。2000年代初頭には寿司レストランが相次いで開業し、現在では⾸都モスクワに約500店、サンクトペテルブルクには約370店の寿司レストランが存在しています。

近年では宅配サービスも広く普及し、SUSHIは⽇常的な料理の⼀つとして幅広い層に浸透しています。⽇本のような伝統的な握り寿司は少なく、スシロールを中⼼としたフュージョンSUSHIが主流ですが、現在のロシアではSUSHIはロシア料理と並ぶほど⼈気の⾼い料理ジャンルとなっています。

モスクワの超⾼層ビル内のSUSHI Bar ※8
モスクワの超⾼層ビル内のSUSHI Bar※8

ヨーロッパと北⽶のOMAKASE事情

広がる欧⽶のOMAKASE市場

ヨーロッパや北⽶では、スシロールやフュージョンSUSHIが⽇常的な外⾷として広く消費される⼀⽅、⽇本のような本格的な寿司を提供するOMAKASEも浸透しつつあります。 OMAKASEとは、料理内容を職⼈に委ねるコース形式の寿司で、現在では⽇本的な本格⾼級寿司を⽰す共通表現として使われていますが、2025年版ミシュランで掲載された寿司店を⾒ると、OMAKASEの評価のされ⽅には地域差があることがわかります。

下の表を⾒てみましょう。ミシュラン掲載店に占める寿司店の割合はアメリカが約6%、カナダが約13%であるのに対し、ヨーロッパでは0.24%と⾮常に低く、⼆つ星以上の寿司店は0です。ミシュランの評価が必ずしも正しいわけではなく、寿司の優劣を決めるものでもありませんが、この差は⽇本的な寿司が各地域でどのような⽂脈で理解され、評価されているかという⼀つの指標ともいえます。

ミシュラン掲載寿司店の地域別⽐較(2025年12⽉) ※9
ミシュラン掲載寿司店の地域別⽐較(2025年12⽉)※9

ヨーロッパにおける⽇本的な寿司

北⽶、とくにニューヨークでは、SUSHIは⽇常的に消費される料理として広く存在する⼀⽅で、OMAKASEのような500ドルを超える⾼価格帯の「寿司」を「特別な体験」として受け⽌める市場が成⽴しています。そのため寿司は、価格や完成度、体験価値を含めた料理として、他ジャンルの⾼級レストランと同じ⽂脈で⽐較・評価されやすく、結果として⾼い評価を受ける店が⽣まれやすい環境が出来上がっています。

⼀⽅、ヨーロッパにも⾼級寿司店やOMAKASEは存在しますが、SUSHIは主に多様な外⾷ジャンルの⼀つとして消費されてきました。そのため、本格的な⽇本のような寿司を「最⾼⽔準の料理体験」とまで評価する⽂脈は、北⽶ほど強く共有されているとはいえません。こうした環境では、OMAKASEの価値は⼗分に理解されにくく、結果として本格的な寿司店が育ちにくい側⾯もあります。近年はロンドンなどでOMAKASEブームとも呼べる動きも⾒られますが、ヨーロッパにおいて⽇本のような本格的な寿司がどのように評価されていくのか、今後の展開が注⽬されます。

OMAKASEを提供するニューヨークの⾼級寿司店 ※10
OMAKASEを提供するニューヨークの⾼級寿司店※10
ロンドンのOMAKASE
ロンドンのOMAKASE

グローバルなSUSHIの未来

四章にわたる寿司・SUSHIの旅もいよいよ最終章になりました。⽇本で独⾃の⾷⽂化として発展した寿司はいまや世界各地に定着し、世界のSUSHIとして各国の⾷卓に⽋かせない料理の⼀つになっています。スシロールやフュージョンSUSHI、ホットロールや寿司タコスのようなさまざまなスタイルのSUSHIが広がる⼀⽅で、⽇本に近い本格的な寿司も各地で浸透しつつあります。

SUSHIの広がりを⽀えてきたのは、スシロールやサーモンの普及、冷凍・空輸技術や流通網の進化、そして各地で寿司やSUSHIを担ってきた⼈々の存在などでした。 ⿂の保存⾷、⽇本の寿司、世界のSUSHI。そこには様々なかたちがありますが、共通するのは酸味のある⽶と⿂介などの素材を組み合わせた構造です。このシンプルなかたちこそが寿司の魅⼒であり、環境や⽂化に応じて世界中に広がることができた理由といえるでしょう。

SUSHIが世界に広がり始めてから、およそ50年。グローバル化の中で、SUSHIはもはや⽇本料理という枠だけでは語れない存在になっています。これからも各地域の⾷⽂化や環境を映し出しながら、姿を変え続けていくでしょう。100年後には、⼀体どんな「酸っぱいご飯料理」が⽣まれているのか。その答えは世界のどこかの⾷卓で、すでに芽⽣えているのかもしれません。

出典:
※1 グルメサイト等で寿司をメイン料理として提供する飲⾷店の集計
※2 Photo by Javier Lastras, CC BY 2.0, Modified from the original
※3 Hemis / Alamy
※4 Photo by vincent desjardins, CC BY 2.0, Modified from the original
※5 Hemis / Alamy
※6 Photo by Jesse Keating, CC BY 2.0, Modified from the original
※7 BSTAR IMAGES / Alamy
※8 Pavel Losevsky / Alamy
※9 :Michelin Guide 公式サイトより集計
※10 Photo by T.Tseng, CC BY 2.0, Modified from the original



寿司研究家・寿司ウォーカー代表
すしノスケ Sushinosuke
神奈川県ずし生まれの寿司研究家。慶應義塾大学経済学部卒業。『J.S.F.A 寿司検定 公式テキスト』総監修。寿司屋とIT企業での勤務を経て、魅力あふれる寿司の世界をすべての人へ伝えるために、寿司職人有志らと株式会社寿司ウォーカーを創業。

世界の寿司学入門
第1章|アジアの寿司文化圏 第2章|北米におけるSUSHI発展史 第3章|南⽶を彩るSUSHIと移⺠の記憶 第4章|ヨーロッパのSUSHI事情
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