Interview

「共創」で、生活者に求められる「買い場」づくりを

(株)Mizkan Holdings 執行役員
 兼 (株)Mizkan 取締役営業 本部長

ITO KATSUMI

※部署名・役職・内容は取材当時のものです

売り場から、生活者の思いが並ぶ「買い場」へ

『ミツカン未来ビジョン宣言』のもと、生活者との直接的な接点の場を担うミツカンの営業部門も、新たな段階を進み始めています。

まずは、売り場ではなく「買い場」という発想。これまでもミツカンは、調味料をメインとする食品メーカーということもあり、得意先様である小売業と連携し、商品という「モノ」の提案だけでなく、生活者が実際に商品を使う場面をイメージできるよう、商品を使ったメニュー(コト)の提案にも力を入れてきました。そして、生活者に愛されたメニューの豊富さには誇りを持っています。

しかし一方で、生活者を見つめていたとはいえ、これまでは「この商品をどう使っていただくか」が核にある、売り場発想であった点も否めません。

今、私たちミツカンの営業が目指すあり方として進もうとしているのは、何より先に「生活者視点」に立つこと。生活者視点であれば、当然、売り場ではなく「買い場」です。メーカーや小売業の売りたい商品が並ぶ場ではなく、生活者にとって価値あるものや生活者の思いが並ぶ「買い場」づくりに貢献する。そのために、より具体的に生活者を知る。それが、リアルな購買行動に最も近いところにいる私たち営業が担う重要な役割だと考えています。

生活者の「物語」に寄り添う

具体的には、「ID-POS」などを使い、個々の生活者の購買行動の実態をデジタルを用いて明らかにさせることをスタートさせています。そこには実は、想像力が求められます。着眼点をどこに置くか、そしてそれに基づく分析をどのように進めるか、生活者の思いをどう読み取るか。これはいわば、デジタルを介してはいますが、生活者へ想いを馳せることに他なりません。

例えば、こんなことがあります。あるお店のお酢が並ぶ棚に、売れ行きがよくない商品がある。しかし、その商品を常に買う方がいて、そのお店にとってはとてもロイヤルティ(※1)の高いお客様。つまり、その商品が店頭に並ばなくなると、そのお客様は別のお店を選ぶことが考えられるわけです。デジタルを使った情報から、そういった生活者の物語をキャッチし、お店全体としての買い場づくりを小売業の方たちとともにつくりあげていく。単に、売れる商品を並べるのでもなく、また生活者の要望をただ受け入れるのでもなく、常に生活者に想いを馳せ、寄り添うことが、これからますます大切になってくると考えています。

※1)顧客が感じる「信頼」や「愛着」。ストアロイヤルティは、特定の店舗を指名して固定客として利用すること。

それは食品ロス削減にもつながる取り組み

実は、生活者を知るということは、必要なものを必要な時に必要な量だけ届けるということもでき、食品ロスの削減にもつながります。

情報の活用の仕方いかんでは、これまで以上に効果・効率的な生産を可能にすることはもちろん、いつどのタイミングでどのくらいの数量が物流に回るのかも明確になり、物流の効率化も図れます。最終的には、サプライチェーン全体での効果・効率につながるように、私たち営業部門が情報をしっかりとつかむことがとても大切だと考えています。

「競合他社」から「共創他社(きょうそうたしゃ)」へ

もちろん、その方向が、生活者の選ぶ楽しみ、買う楽しみを奪うものではあってはいけません。「生活者が何を求めていて、何に悩んでいて、何を価値として思っているのか」をつかみ、そのつかんだものを、商品価値と体験価値の両方から買い場においてしっかり提案すること。

その一つの方向として、ミツカンは新たな取り組みをスタートさせました。「地域密着」という「コトづくり」です。一つは、高知県安芸市のゆず農家さんの声を最大限に活かした共創商品「まっことゆず」を高知県でNo.1のぽん酢に育てること。そのために、ゆず農家の皆さんとともに、従来にはないチャネル(道の駅など)での販売促進にも取り組んでいます。

もう一つは、既存商品を生かし、各地域の行政やメディア、生産者、地元の小売業の方々とのリレーションによるコトづくり。例えば、東北は塩分が高めの味付けが好まれる傾向にあり、血圧が高い人が多いと言われているエリア。健康寿命を伸ばす方向へシフトしていきたいという地域の思いをもとに、たくさんの野菜が食べられる鍋メニューを鍋シーズンの秋冬だけでなく、1年を通して提案していく。この取り組みで大切なのは、地元の生活者の共感をより得られるようにすること。そのためには、より地域密着で価値を伝える必要があり、地元のメディアとタッグを組み、情報番組などに各地の営業部員が出演し、地元の野菜を使った鍋メニューの提案を行っています。

『ミツカン未来ビジョン宣言』で、ミツカン全体として「おいしさと健康の一致」を宣言したように、生活者の買い場づくりを担う営業は、こう宣言します。「おいしさと健康の両立を『共創他社』で実現していく」と。小売業をはじめとした得意先様との共創はもちろん、全国の営業部員一人ひとりが、その地域のスペシャリストとなり、地元を知り、地元の生産者を知り、地元の小売業を知り、地元の生活者を知り、そこで共感を得て、共鳴いただける体験価値を提供して、生活者に愛される買い場をつくり続けていきたいと考えています。