Interview

生活者の幸せにつながる期待を「当たり前」で超えていく

(株)Mizkan Holdings 執行役員
 兼 (株)Mizkan 取締役 MD本部長

SATO TAKESHI

※部署名・役職・内容は取材当時のものです

なぜなら、生活者を幸せにしたいから

「おいしさと健康の一致」を核に、ミツカンのこれからの姿を宣言した『ミツカン未来ビジョン宣言』。私は、「なぜミツカンは、この宣言をしたのか?」と直接問われたら、「その先に、必ず生活者の心と体の幸せに貢献できる自信があるから」と答えます。ストレートにそう語るのは、少し照れくさくもありますが、率直な思いです。なぜなら、今、進めている取り組みの先に「生活者の幸せ」をイメージするからこそ、私自身が仕事を行う喜びも幸せもあるからです。

商品の企画や食卓提案を担うミツカンのMD本部は、まさに、「どうすれば生活者の日々の暮らしを幸せにして対価をいただくことができるか」を考え抜く部門です。そのためには、商品という「モノ」づくりはもちろん、商品を使った「コト」づくりや生活者とのコミュニケーションにおいても、社員一人ひとりが、いかに「妄想力」を発揮できるかが大切だと考えています。

妄想力とは、単に今ある状況から思いや考えを巡らして先を読むのではなく、自分以外の見えない誰かの暮らしが「こうなるといいな」や「こうあると楽しい、うれしい、面白いと感じてくれるんじゃないか」という、わくわくする未来を想像することです。

「誰か一人」のストーリーに思いを馳せる

もちろん、生活者と一口にいっても、環境も違えば、好みも違います。例えば、「おいしさと健康の一致」という言葉も、受け取る生活者の方々によって、捉え方には幅があります。ミツカンのビジョンとして芯の通ったメッセージを発信していくことはとても重要ですが、ロジカルにすっきり整理しようと、こちらの都合で生活者の意見をまとめてしまう結果、生活者に共感されない一方通行でのコミュニケーションになってしまうのは、よくありません。これはある意味、「マーケッターとしてはこう考えるべきだ」という意識が強いと、つい陥りがちなプロセスです。

ミツカンのMD本部として進めたいのは、まず、一人ひとりが「誰か一人」のストーリーに思いを馳せること。それは家族の誰かでも、友人の一人でもよく、自分が考えている商品や技術で、その一人の1日の生活をちょっと幸せにできたり、笑顔にできたり、何か課題を解決できたりといったことを思い描く。具体的に思い描いて初めて、本当の意味での生活者視点に立つことができると思います。

コミュニケーションも同じだと考えています。例えば、「味ぽん」1本で『ミツカン未来ビジョン宣言』を語れるかどうか。得意先様はもちろん、家族や友人など身近な人とも「味ぽん」の話になった時に、「味ぽんというのは、こんなストーリーがあって、こんな改良をしていて、味ぽんファンの人にはこんな使い方もしてもらっていて…」と思いを語る。ミツカンという企業と生活者とのコミュニケーションにおいても、「すぐそばの誰か」に熱く語るように伝えることで、ミツカンが本当に伝えたい思いが伝播していくのだと思います。

「ともに」で始まり、「ともに」で育つ

そんな具体的なストーリーから生まれ、そして育つ「モノ」や「コト」は、つくり手にとっても、生活者にとっても、やはりとても魅力的なのだということを改めて実感する商品を2021年の秋に発売しました。

高知県安芸市のゆず生産者の方々(以下、ゆず農家さん)との共創により誕生した「まっことゆず」(ぽん酢商品)です。それぞれの地域には生産者の方が誇りを持ってつくられている農作物があります。ミツカンは、そういった生産者の方との対話を通じた商品開発を進めたいと考えてきました。

高知県安芸市のゆず農家さんとは、「ゆずぽん」や「かおりの蔵」を通じ、40年以上のお取引の歴史があります。「まっことゆず」は、原料の生産者の方々と「ともに」価値をつくっていくという方針のもと誕生した初めての商品です。ゆず農家さんの、世界で一番おいしいゆずをつくっているという想いと誇りを世に広めたい。ゆず農家さんの自家製ぽん酢にならい、そこにミツカンの技術を結集し、食品添加物に頼らずにおいしさを引き出すことにこだわったクリーンラベル(※1)商品として取り組んだのです。ゆずの自然な味わいが口に入れた瞬間から食べ終わるまでしっかりと感じられる品質となっています。

さらに、ゆず農家さんとミツカンは、開発だけでなく、TVCMやPR活動、また販促活動においても共創の姿勢で取り組んでおり、その成果は、売上にしっかりと現れています。今後、こういった地域とのストーリーを持った商品づくりにおいても、一つひとつ大切に熱い思いで取り組み、育てていきたいと考えています。

(※1)『ミツカン未来ビジョン宣言』で掲げた、「おいしさと健康の一致」の実現に向けた品質・味づくりの考え方。

ブランドは
生活者の心の中にあるもの

もう一つ、商品企画や食卓提案を行う上で、ミツカンが目指したいのは、例えば「味ぽん」という商品においては、「味ぽん〝で〟いい」ではなく、「味ぽん〝が〟いい」と生活者に言っていただけること。おかげさまで、現在、「ぽん酢といえば味ぽん」というイメージを持っていただける方が多いことは、誇りに思っていますが、逆にそのイメージゆえに、「味ぽん〝で〟いいや」という選択になっていないかどうか。

これまでは、「味ぽん〝で〟いい」という選択のされ方が他を選ぶ余地を与えないという点で強みだと考えていました。しかし今、情報入手が容易で、自分の価値観に合ったものを探そうとする人たちが増えてきている中、ミツカンが取り組まなければいけないのは、「味ぽん〝が〟いい」と思い、積極的に選択していただくこと。そのためには、現状の商品で満足するのではなく、常に未来価値をつけていく行動をとることが何より大切だと考えています。

これは、「ブランドとは何か?」への問いかけへの答えの1つでもあると考えています。ブランドとは企業のもの、商品のつくり手のものと考えてしまいがちですが、「生活者の頭の中のイメージそのもの」なのです。これを「当たり前」として取り組めば、社員一人ひとりの「生活者の幸せ」への妄想力は、大いに発揮されるのではないでしょうか。