気になる納豆のにおいを抑え
大ヒット商品「におわなっとう」を開発

明確な科学的根拠と、はっきりとした魅力ある個性を持った商品こそ、
お客様にお届けする価値がある

いつでもにおいを気にせず
食べられる納豆を

納豆=「臭い」といったイメージを抱いている人は少なくありません。ミツカンがおこなった調査結果を見ても、実際に大阪では回答者のうち約5割が「納豆のにおいが気になる」または「やや気になる」と答え、「食べたあとの口臭が気になる」または「やや気になる」という人は、7割にも上ることがわかっています。納豆嫌いの人に限らず、「自分は食べたいけれど、食後の口臭が気になるので控えている」「食べるのはいいんだけど、食後の食器がにおって洗うのがイヤ」という人も多く、納豆のにおいは納豆業界にとって長年の課題となっていました。

※商品の仕様は地域により異なります

そこで1998年頃からスタートしたのが、「においの少ない納豆」の開発です。納豆のおいしさはそのままに、気になるにおいだけをとりのぞいた納豆を実現するため、研究開発はまず納豆のにおいとは何であるかを探ることから始まりました。

低級分岐脂肪酸のメカニズムに着目

納豆は、煮た大豆を納豆菌の力で発酵させて作ります。この発酵過程で納豆菌がピラジン類、ジアセチル、アンモニアなど多くの物質を作り出し、それが混ざり合って独特なにおいを生み出しているとされており、とくにアンモニアがその大きな原因になっているのではないかと考えられてきました。

しかし今回、研究員が着目したのは「低級分岐脂肪酸」です。低級分岐脂肪酸は、納豆の発酵過程で3種類のアミノ酸が化学変化を起こして生まれる物質で、腐敗したチーズのような強いにおいを発生します。具体的には、煮豆の中のロイシン、イソロイシン、バリンというアミノ酸が、発酵によってイソ吉草酸、イソ酪酸、2メチル酪酸という低級分岐脂肪酸に姿を変え、においを生み出すのです。納豆のにおいを生みだしているさまざまな物質の中でも、この低級分岐脂肪酸がにおいの大きな原因になっていることが判明しました。

となると、納豆の発酵過程で低級分岐脂肪酸を発生させない納豆菌を見つけられれば、気になる納豆のにおいをなくすことができるのではないか。研究は次にその菌を見つけ出す段階へと移りました。

約2万の納豆菌と向き合う

約2万の納豆菌の中から、低級分岐脂肪酸を発生させない菌を探すのは、困難を極めました。

もし、発生しない菌があったとしても、同時に発酵する力が弱かったり、発酵を止めてしまったりすると納豆になりません。最初に選び出した152種の菌はうまく発酵が進まないものばかり。来る日も来る日も研究を続け、ようやく低級分岐脂肪酸を発生しない「N64菌」を発見したのは、およそ1年後のことでした。

納豆菌 Bacillus subtilis N64の電子顕微鏡写真

こうして商品化されたのが、2000年に発売となった「金のつぶ『におわなっとう』」です。発売と同時に、「口臭を気にせず出勤前や仕事の合間のランチでも食べられる」「気になるにおいがないから子供も食べるようになった」などと大好評をいただき、2006年までに10億食を越える大ヒット商品に。また、この納豆菌はたれの風味を損なわないことから、「金のつぶ 梅風味黒酢たれ」という他にない味わいの納豆の開発にもつながりました。

「におい」という形のないものにチャレンジして生み出した「におわなっとう」。それは、納豆菌そのものの開発という裏付けがあっての成果です。明確な科学的根拠と、はっきりとした魅力ある個性を持った商品こそ、お客様にお届けする価値がある。ミツカンの研究員は常にそのことを忘れず、さまざまな課題に立ち向かっているのです。

研究開発を振り返って

納豆嫌いの方はもちろん、「自分は納豆のにおいは気にならないのけど、食後の口臭でまわりの人に迷惑をかけるから……」と控えていた納豆好きの方たちにも喜んでもらえたのはうれしかったですね。納豆菌は無限の可能性を秘めた存在。これからも納豆菌育種を通じて、魅力的な商品を開発していきたいと思います。
中央研究所 主席 竹村 浩

※部署名・役職・内容は掲載当時のものです