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第8回 海外のおすし事情
 世界のSUSHIよどこに行く?

はじめまして。小倉ヒラクです。僕は「発酵デザイナー」という肩書で、日本各地の発酵文化を訪ねる仕事をしています。 この連載では、おすし文化の進化系をご紹介していきます。

グローバルなすしの好みは?

海外のおすし事情

 「あなたの食べたい和食は?」
と海外の人に聞いたら、おそらくラーメンと並んで筆頭にあがるのがおすしでしょう。

 故APPLEのスティーブジョブス始め、ヘルシー志向や美意識のあるセレブたちがこよなく愛するグルメとして有名になりました。

 最近はセレブや日本好き以外でも、身近なごちそうとして世界各国でおすしが楽しまれています。

 そんなグローバルグルメとしてのSUSHI。みんな実際どんなネタが好きで、どんな風に食べているのか見ていきましょう。

ポピュラーなネタはどれだ!?

 僕は発酵文化を訪ねて世界各地を旅する機会がけっこうあります。

 海外旅行をはじめた20年前と比べると、本当にあちこちでおすしを見るようになりました。

 最近だと世界の主要空港のキヨスクで普通にテイクアウト用のおすしが売っていたりします。

 とはいえ、日本のデリバリーおすしと同じではなく、ネタや仕上げに傾向があります。

 以下、海外の友人たちの意見をもとに「海外のSUSHIっぽい要素」を抜き出してみましょう。

 まず最もポピュラーなネタ。
これはどの地域でもほぼ例外なくサーモンです。洋食でもオードブルでスモークサーモンを食べるように、多くの国で普通に流通している魚で、かつ臭みも強くないので重宝されているんですね。

 次いでポピュラーなのは、マグロ。マグロを生で食べる文化はハワイのようにごく限られているのですが、日本のおすし体験で開眼したのでしょうか? ちなみに人気は赤身ではなく脂の乗ったトロ。サーモンしかり、海外では脂の強い魚が好まれるよう。
(反対に僕の好きな〆鯖はあんまりみかけない…)

 マグロに匹敵する定番は、アボカド。海外、とりわけ欧米でおすしを好む人はヘルシー志向、ベジタリアンも多いので当然野菜のネタも好まれます。
アボカドも脂っぽくてトロっとしているので人気があるのも理解できます。

 三番手を挙げるならば…牛肉でしょうか。

 「もう魚じゃないじゃん!」

 って思いますよね。でも脂が乘ってて口当たりがよくて…となると牛肉の脂身がいいんですよ。
てりやきソースを絡めてすきやき風に仕上げた肉、日本人の僕からすると「これおすし?」と思いますが、フツーに美味しいです。

潜入!インバウンドすしレストラン

 ここ2年ほどかつてない海外観光客に沸く東京。なかでもとりわけインバウンド対策に力を入れる某大手回転ずしチェーンのグローバル旗艦店を訪ねに銀座の一等地へ行ってきました。

 カウンター席につき、注文用のタブレットを日本語でなく英語モードで起動すると、出てきたぞ…めくるめくグローバルSUSHIの世界が!

 トップ画面には大トロや炙りサーモンマヨネーズ和え、牛肉すき焼き風…。海外で人気のネタがズラッと並びます。

 握り寿司と並んでイチオシなのは巻き寿司。といっても日本の巻き寿司とは違います。

 日本の典型的な巻きずしは、外側が海苔に覆われた黒い巻きずし。しかしグローバルスタイルは「裏巻き」といって、お米が外側で内側に海苔が巻かれたスタイルです。

 なぜこの裏巻きが好まれるのか?
それは、白い米をキャンバスに見立てて、そこに様々な「映(ば)える趣向」を凝らすのですね。

 たとえば。
サーモンとチーズとアボガドを巻いた裏巻きに、天かすをチップスのように散らしたクリスピー巻き。

 アメリカSUSHIの典型、カリフォルニアロールの変種といえるでしょう。なんと日本で、しかも回転ずし屋さんでカリフォルニアロール食べられるんだよ!

 みんな、注文は英語モードでやってみるべし!

 ちなみにもうひとつ季節のイチオシ巻物は、カルビロールでした。ここはもう完璧に海外のSUSHI RESTAURANT…!

 他に日本では見かけないネタを探していたところ、目に入ったのがアジの天ぷら握り。天ぷらとおすしの合体!

 天ぷら丼にしたほうがいいんじゃない?と思いつつ頼んでみると、一口で食べられる天丼という感じで面白い食体験でした。

 チーズ、カルビ、天ぷら…
いったいおすしとは何か?これまで重ねてきた考察を粉々に破壊していくグローバルSUSHI。

 これはいったいどのような概念であるのか…?
としばし熟考した結果、海外でのおすしは「すっぱい米と魚」ではなく、むしろ「一口サイズで様々な美味しさを楽しめるプラットフォーム」と表現したほうが良いのでは?と思い至りました。

 おすしは、いやSUSHIは食のプラットフォーム。ヘルシーに、気軽に、彩り豊かに。一口のなかに広がる無限の美味しさ。それがSUSHI…!

 これがfrom日本であることには意味がある。レシピのレベルではなく、世界観のレベルで。

 様々な小さいものを組み合わせて季節感やおもてなしの心を表現する日本の箱庭・ミニチュア的美意識。これが食のプラットフォーム化するとSUSHIになるんだよ。

 そう。これはレシピの輸出ではなく、思想の輸出なのだ…!

 と書いたところで思い出した衝撃的SUSHI体験がありました。

 パリのお洒落おすしレストランチェーンと現地の友人と一緒に行った時のこと。おすし屋さんにいっても前菜→メイン→デザートのフレンチコースの流儀を貫く友人が最後のデザートに頼んだのが、NUTELLA(フランス定番のチョコレートバター)の巻きずし。

 えっ、チョコレートをご飯に巻いちゃうの?


小倉ヒラク (おぐら ひらく)
東京でデザイナーとして活動した後、東京農業大学で研究生として発酵学を学び、山梨県甲州市の山の上に発酵ラボを創設。「発酵デザイナー」を肩書として、発酵と微生物の素晴らしさを伝えるプロジェクトを手掛ける。著作に『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)、 『日本発酵紀行』(d47 MUSEUM) など多数。2020年、東京下北沢に発酵専門店「発酵デパートメント」をOPEN。

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