(右)KCJ GROUP株式会社 
代表取締役社長 圓谷 道成
(左)株式会社Mizkan Holdings 
執行役員 日本+アジア事業 CRM本部長 林 太郎

Interview

『ぽん酢工房』を通じてこども達とともに未来を創る

※部署名・役職・内容は取材当時のものです

2023年3月9日、キッザニア東京にミツカンのパビリオンである『ぽん酢工房』がオープンしました。ミツカンにとってはじめてのパビリオン出展という大きなプロジェクトがスタートしましたが、このキッカケとなったのは一本の電話でした。互いのビジョンに共鳴し、人と人が、企業と企業が結びつくこととなったのです。ここでは、本プロジェクトに至るまで、“ともに”歩んだ道のりについて紹介します。

2人の出会い

林 : 圓谷さんとの出会いは、確か6~7年前と記憶しているのですが、互いに今とは違う会社にいて、とあるサブスクリプションサービスでご一緒したのが、最初の仕事でした。
圓谷 : そうですね、協業ビジネスで互いにそれぞれのチームの責任者でしたね。思ったように進まないこともありましたが、言いづらいこともしっかり言い合ったので、是々非々と仕事ができたと思います。

林 : 私にとって圓谷さんは兄貴分というか、当時、売上主義だった私を懐深く受け止めてくださいました。KCJ GROUPの社長に就任されたと伺って、圓谷さんのお人柄からも、なるほどと納得していました。
圓谷 : 林さんの最初の印象は、正直厳しい人だなというイメージでしたね。実際はそんなことはなかったのですが、手強いという感じはしていたかな。
林 : 仕事の現場ではやはりピリピリした瞬間もありましたよね。でもそういう時も、場を和ませてくれたのが圓谷さんでした。頼りになる兄貴だなと思ったわけです。

キッザニア出展のきっかけ

林 : 事の始まりは、ミツカングループの前代表である中埜和英と「ミツカンとこども達との接点を作っていきたい」と話していたことに遡ります。愛知県半田市にある体験型博物館MIZKAN MUSEUM(ミツカンミュージアム)の一部をこども向けに改造しよう、とか、こども達が楽しめる要素を取り入れた工場見学はどうか、とか。そんなアイデアをいろいろと巡らせていた時に、KCJ GROUPの社長になられた圓谷さんのことがふと頭に浮かびました。ちょっとアドバイスをいただけないかなと思って電話したのが、2021年の11月だったと思います。

圓谷 : 早速お会いしましょう、となったんでしたね。
林 : そしたら、こども向けにしたいなら、いっそのことキッザニアにパビリオンを出展する方法もありますよと、またうまいことおっしゃって(笑)。
圓谷 : いや、あれは本当に運命的なタイミングだったんですよ。ちょうど加工食品メーカーの誘致を会社として検討していた頃で、ビビッときましたね。“飛んで火にいる林さん”でしたね(笑)。
林 : もちろん、きちんと経済的合理性や投資効果を見極めた上での最終判断でしたが、この時は千載一遇のチャンスだと思いました。東京の真ん中でこども達と直接接点を持てるわけですから。
圓谷 : 林さんも社内でスムーズに動いてくださったので、思いのほか早く話が進みましたね。
林 : スムーズに見えたかとは思いますが、実際は社内チームがかなり努力をしてくれました。チームメンバーに対しては、「このプロジェクトは、ミツカンにとって新たな歴史を刻む大きな一歩になるぞ!」と言っていました。みんなが熱い想いを持って取り組んでくれたからこそ、実現までの長い道のりを着実に突き進んでいけたのだと思います。
圓谷 : その熱意を強く感じましたよ。出展にかかる初期費用、ランニング費用をすぐにご理解いただけたことに加え、よいコンテンツにするのだという強い意志が伝わってきて、私たちもなんとか期待に応えたいと思いました。チームの皆さんが“自分事”として捉えて、本当に懸命にプロジェクトを進めてくださいました。それがとても印象に残っています。

互いに共鳴したビジョン

林 : ミツカンは『未来ビジョン宣言』の中で「人と社会と地球の健康」を掲げています。未来を担うこども達と真剣に向き合った時に、特に社会の健康を実現するためには食品メーカーだけでは正直に言うと限界がある。社会の仕組みそのものをこども達に学んでもらうことが、豊かな社会であり、よりよい教育であり、結果として社会の健康につながるだろうと考え、まさにキッザニアとなら『未来ビジョン宣言』を実現できると思いました。
圓谷 : こども達の生きる力を育むこと、気づきを得てもらうこと、そしてその瞬間を提供していくことの大切さという意味で、我々は合致したのですね。それと、ミツカンの『未来ビジョン宣言』については、林さんがミツカンに入る前から実は知っていまして、かなり有名なんですね。企業が目指すところを明確に打ち出されていて、とても印象が強かった。だからプロジェクトを始めようとなった時に、すでに私の中では、ミツカンの『未来ビジョン宣言』はベースにあったわけです。とても分かりやすくて心に響きました。未来志向の企業であるという点は共感したところだと思います。
林 : 未来に向けての意識を共有できたということは間違いないですね。『未来ビジョン宣言』をはじめ、弊社の理念やポリシーなどは、ひとつひとつの言葉を選ぶのに、ものすごく時間をかけて丁寧に議論しています。だから明確に伝わっていくのだと思います。

『ぽん酢工房』を通して提供していきたい価値

林 : 今回の出展は、味ぽん®を売ることだけが目的ではありません。こども達にあえて普段なじみのない「味付けぽん酢」をテーマにした珍しい体験をキッザニアに持ち込み、まずは関心をもってもらうことが重要と考えました。「味付けぽん酢」が完成するまでの一連の工程を体験することで、調味料がどんな風に作られているか、発酵食品であるお酢がどのように作られるかを学んでもらい、食への興味関心を高めてもらうことで、結果として、ミツカンの名前は覚えてくれるだろうし、さらには愛着心を持ってくれるだろうとも思います。テレビCMから店頭への誘導等の即時的態度変容ではなく、体験を通じてこども達に直接語り掛け、その親御さんを含むヤングファミリーによる調理体験のきっかけへと接続し、中長期エンゲージメントを構築するという手法は、ミツカンにとって新しい挑戦でした。

圓谷 : 味付けぽん酢がどんな風に作られているのかを知っているこどもは少ないと思います。自分が知らない世界があったということ、それが自分たちの口に入って命を作っていることをこども達は知ります。キッザニアが大切にしている“エデュテインメント(楽しみながら学ぶ)”ですね。お酢が2段階発酵しているなんて、私も知りませんでしたから(笑)。どんなことをこども達が体験できたかを、保護者の方が質問してくれるといいですよね。ご家庭でのコミュニケーションのきっかけにもなります。

林 : キッザニアでの体験が一過性の思い出で終わらないということが大切だと思っています。パビリオンでの体験により、こども達の食に対する興味関心を引き、そこから持ち帰ってもらう成果物を通じ、家庭での調理体験に結び付けることで、体験を継続させていく。さらにその成果物からウェブサイトに誘引して持続的関係につなげる。いわばキッザニアからミツカンへ体験のリレーとも言えます。私たちがどんなバトンで次につないでいくのか、それが大きなテーマにもなると思っています。
圓谷 : 体験の余韻を楽しめるということですね。

『ぽん酢工房』の未来予想図

林 : まずは『ぽん酢工房』を長く続けていきたいと思っています。また、デジタル領域でも、キッザニアとパートナーとして総合的に成長していけたらと思っています。『ぽん酢工房』はその第一歩になるでしょう。
圓谷 : パビリオンを体験したこどもが大きくなって、その企業に入社を希望するとか、そんなエピソードが多くあります。より多くのこども達にミツカンの想いを体験してもらうためにも、ぜひ他の拠点でも出展をご検討いただきたいと思います。

林 : 長い目で見れば、こども達が大人になった時に、ミツカンの考え方に共感、浸透していくということも考えられますね。ものではなく体験としてこども達の心に残っていくからこそ、起きる化学反応だと言えますね。
圓谷 : ミツカンに入社しないにしても、起業してミツカンとコラボするとか、いろいろな可能性を秘めているわけです。
林 : ミツカンの商品だけでは届けられない価値をキッザニアで創出することができるということですね。“ともに”未来を創造するパートナーとして、これからもよろしくお願いいたします。
圓谷 : こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。

※キッザニアとは

キッザニアは3歳から15歳までのこども達が、職業・社会体験を通して、社会の仕組みを学ぶこどもが主役の街。施設内には約60のパビリオンがあり、約100種類のアクティビティ(仕事やサービス)を体験することができる。東京・甲子園・福岡の3カ所にある。
Education(学び)とEntertainment(楽しさ)を組み合わせた造語である、「エデュテインメント(楽しみながら学ぶ)」をコンセプトとし、「こども達の生きる力を育む」という理念を掲げている。

  • KCJ GROUP株式会社 代表取締役社長

    圓谷 道成

    MICHINARI TSUMURAYA

    東京都生まれ。1988年に現在のKDDIに入社、固定通信事業やコンテンツ・メディア事業、新規事業推進などを経て、2018年にKCJ GROUP株式会社の副社長に、2020年のコロナ禍に同社代表取締役社長に就任。エデュテインメントはそのままに、館内のDX化やオンラインサービスの導入など、サービスのスマート化を進めている。座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」

  • 株式会社Mizkan Holdings 執行役員
    日本+アジア事業 CRM本部長

    林 太郎

    TARO HAYASHI

    大阪府生まれ。ニューヨーク州立大学(SUNY)Albany本校Geography学部を卒業後、大阪の広告代理店、外資系広告代理店での営業職を経て、2003年にウォルトディズニージャパン(株)、(株)カプコンに勤務。19年もの間、エンターテインメント業界、特にデジタル領域でそのトップシーンを作り上げてきた。2021年7月、(株)Mizkan Holdingsに入社。座右の銘は「挑戦」