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北海道札幌の寿司屋「鮨処いちい」の女将。
井出美香 (いで みか)さんによる
コラム「すしやのおかみ横丁」
寿司にまつわる日々の
エピソードをご紹介します。
山田先生に春が来た
長年通ってくれているお客様で、中学校の教諭をしている山田さんの話をしよう。
数か月に一度は顔を出し、学校でのエピソードを話してくれる常連さんだ。いつもおひとり様でいらっしゃるのだが、ある時、小柄で清楚な女性を連れて来店した。

「あら!今日はどうしたの?かわいい女性を連れて珍しいわね。」と言うと、山田先生は照れくさそうに言った。「実は結婚することになりました。」
その時の私と大将の喜びようと言ったら(笑)。皆様にお見せしたかったくらい大喜び。山田先生は、熱血先生でいつも生徒のことばかり考えている人。今まで交際をした女性はいたようだが、せっかくのデートの日でも、生徒との交流を優先してしまう。「私より生徒のほうが大切なのね・・・」とお付き合いしている女性が去ってしまうらしい。そんな山田先生に春が来たのだ。

「大将、おすすめの今日のネタをお願いします。」と元気に注文する山田先生の嬉しそうな顔は忘れられない。
「先生おめでとう。今日は、帆立のデカいやつが入っているよ。」と笑顔の大将。

北海道の帆立
春の食材といえば帆立が好きだ。北海道の帆立は通年食することができる食材だが、やはり冬から春にかけて獲れる 野付のっけ産や、噴火湾産の帆立が大きくてプリプリなのだ。特筆すべきは、帆立の卵巣と白子である。帆立を捌いた人ならわかると思うが、貝柱の横に付いている白いのが白子で、オレンジ色のが卵だ。捨ててしまう人もいるのだが、処理をした卵巣と白子は生で食べると最高に美味しい。生の卵巣は、まるで雲丹のような味わいだ。これをカレーに入れた帆立の肝カレーは、北海道民のソウルフードと言えるだろう。

食べるとザクザクと音がするほど大きな帆立の刺身を味わう先生。幸せそうな笑顔のおかげで、カウンターに優しい時間が流れた日。

井出 美香 (いで みか)
北海道札幌の寿司屋「鮨処いちい」の女将。東京にてキャラクターデザイナーを経て寿司屋のおかみさんになり日々奮闘中。レシピ本発行、エッセイや旅のコラムなど執筆中。
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