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北海道札幌の寿司屋「鮨処いちい」の女将。
井出美香 (いで みか)さんによる
コラム「すしやのおかみ横丁」
寿司にまつわる日々の
エピソードをご紹介します。
チップに恋した外国人
ちっぷ
世界中からお客様が来店されるようになったのは十年ほど前からだろうか。寿司という食文化を通して、たくさんの国の方々と交流を持つことができるのは本当に嬉しい。寿司屋に嫁に来てヨカッタと思うのはこんな瞬間だ。

6月くらいから夏にかけての、北海道のおススメの食材は、チップだ。チップとは、北海道の湖の淡水魚であるヒメマスのこと。北海道ではアイヌ語でチップと呼ばれて親しまれている。
なかでも支笏湖産のチップは有名だ。
淡水魚といえば、くさみのある魚を想像しがちだが、支笏湖産チップは水質が綺麗であることから、まったく臭みが無いのだ。体長は、大きいものは20センチくらいで、体表がきらきらと輝き、きめの細かいオレンジ色の肌がうつくしい。刺身にしても、握りにしても、上品な脂と旨味が楽しめるのだ。

数年前の7月。通訳ガイドを連れたアメリカ人が来店した時のこと。アメリカ人とはいえ、物静かで礼儀正しく、まるで日本人のような気づかいのできる男性だった。通訳によると、一番好きな寿司ネタはサーモンだという。
「サーモンがお好きでしたら、今はヒメマスのチップがおすすめですよ。」と言ってみた。通訳ガイドさんも上手に通訳してくれて、アメリカ人は喜んでチップの握りをパクリ。食べるや否や、目をまん丸くして大喜びの表情。こんなヒメマスは食べたことが無いと驚きの表情を見せていた。嬉しそうなその顔に、心の中でガッツポーズをする私。美味しい笑顔は世界共通。それを見られることは最高の喜びだ。

それからというもの、チップ、チップ、またチップと、何度もおかわり(笑)。とうとう、その日仕入れたチップのすべてを食べてしまった。最後までチップだけを食べ続けたのには驚いた。ガイドは「この美味しさはアメリカには無い。今の時期しか食べられない魚だと分かり、これを食べるためにまた北海道に来ると言っています。」と通訳してくれた。食を通じて世界とつながる。まさに寿司という文化はその代表ツールではないだろうか。
井出 美香 (いで みか)
北海道札幌の寿司屋「鮨処いちい」の女将。東京にてキャラクターデザイナーを経て寿司屋のおかみさんになり日々奮闘中。レシピ本発行、エッセイや旅のコラムなど執筆中。
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