
「京は遠ても十八里」——この言葉は、鯖街道を語る際に必ず耳にするものです。かつて京都は内陸の地で、海の魚が手に入りにくかったため、福井県小浜から塩漬けにした鯖を運ぶことが重要な役割を果たしていました。
小浜は北前船の寄港地として、若狭地方の中心的な港町であり、古くから日本海側の流通の中心地として、海産物の集積地として栄えてきました。歴史的には「御食国(みけつくに)」として知られ、朝廷に新鮮な魚介や塩、山の幸を安定的に供給する役割を担っていました。そのため、皇室との結びつきが深く、海と陸をつなぐ交通の要衝として港の整備や街の繁栄が促されてきたとされています。。小浜の港からは数多くの魚種が京都へ運ばれましたが、その中でも特に鯖の質と量が飛び抜けていたことから、「鯖街道」と呼ばれるようになりました。
また、鯖は京都の祭りや伝統料理に深く根付き、例えば鯖寿司は葵祭などの行事に欠かせないご馳走となっています。また、浜焼き鯖や糠漬けのへしこといった郷土料理も、この街道が育んだ食文化の一端です。
この「十八里」とは約72キロメートルの距離を指し、険しい山道を行商人たちが昼夜を通して一日で歩ききったと伝えられています。
私もこの鯖街道に強い興味を持ち、かねてから走破を企てていましたが、秋には熊の出没があり断念。しかし、小浜市主催の「鯖街道ウォーキング」が毎年5月に開かれると知って、思い切って参加することにしました。今年で21回目を迎えるこのイベントは、北海道や関西圏、東京など全国からリピーターも多く集まります。
毎年、楽しみに参加しているという方も少なくありません。このために、日々、ウォーキングなど1万歩以上歩きで体力作りをしているという方、日々エレベーターを使わず階段を使って上り下りをしているという方、用を見つけては会社の中を歩き回って出来るだけ歩くようにしているという方、皆さんそれぞれに鯖街道完歩の意気込みを持って参加されており、スタート地点では、昔の人たちの苦労を追体験するかのような熱気とワクワクするような空気に包まれていました。
今回歩いたのは鯖街道の中でも特に険しい「針畑越え」ルート。針畑峠(地元では根来坂)を越えて朽木を経由し、京都鞍馬に向かう道です。ツアーではバスなどを併用しながら約30キロを2日かけて歩きます。
小浜市街地からスタートし、平坦な里の道を歩いていると、このまま京都まで着いてしまいそうだな。。。と思っていたら甘かった!一転、急な登り坂の山の中へ。
これぞ、鯖街道じゃないか!と、最初はいい気分で登っていたのですが、これが結構な急斜面でした。休憩時間が待ち遠しくなるほどです。
でも、休憩時間の水の美味しかったこと。そして、山を駆け抜ける風の気持ちよかったこと。
気が付くと、里の雰囲気はなくなり、すっかり山の中。途中、杉林の中や斜面にへばりつくような細い道、最後には靴を脱いで小川を渡って、1日目の目的地、朽木(滋賀県高島市)へ。
宿では、参加者全員での食事と、自己紹介。1日一緒に歩くと、同志のような連帯感が生まれてきますね。
朝は知らないもの同士でも、一緒に山を歩いて食事をすれば、いつの間にかおしゃべりに花が咲きます。
翌日は渓流沿いの、ちょっとじめじめした鬱蒼とした森の道を歩くことから、ヤマビル対策をして歩きました。が、ヒルと聞いただけで、落ちてこないか、どこか噛まれてないか、ビクビク。おかげで周りの景色があまり楽しめなかったのが残念でしたが、結果的には誰も被害に遭いませんでした。(笑)
そして、途中で見えた琵琶湖!福井県小浜市を出てからは、ずっと山の中の風景だったこともあり、見た時には、ああ、確実に京都に近づいているんだな、、とちょっと感激しました。
昔の人もそんな思いで歩いていたのかな、途中そんなことを思いながら、一歩ずつ着実に京都へと歩みを進めていきました。ゴールの京都・出町柳の商店街では、地元の人々から拍手で迎えられ、疲れよりも誇らしさ、歩き切ったという達成感の方が大きく、感激もひとしおでした。
また、歓迎式典などもあり、小浜市からも市長さんが駆け付け、鯖の贈呈式が。ここからも京都と小浜のつながりの深さを感じました。そして、また歩きたい?とい言われたら、「もちろん!」と答えてしまう自分がおり、毎年参加されている方の気持ちがよくわかりました。
そして、この企画を支えているのは、「鯖街道ウォーキング実行委員会」の皆さん。皆さん全員がボランティアスタッフです。わが町の、誇れる文化を広く知って欲しい、後世に残していきたい、そして何より鯖街道が大好き、そんな思いを感じることができました。
今回歩いてみて、若狭の海の幸を運ぶ鯖街道は、単なる通り道ではなく、人々の生活や文化を繋ぎ育んだ、かけがえのない道だったのだと感じることができました。
これからは京都で味わう鯖の一切れに、遠い昔の魚荷衆たちの汗と努力が込められていることを思い起こして、味わいたいと思います。
なお、小浜市鯖街道ミュージアムでは日本遺産ガイダンス施設として、日本遺産「鯖街道」をはじめとする小浜市の文化財や伝統芸能、祭礼などを紹介しており、鯖街道と合わせて見学するとより理解が深まることでしょう。








