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(12)湾椀すし™とは
湾椀すし™とは

湾椀すし™は、各地の湾と連携し、その地域ならではの特徴をお碗に映し出す新しいすしの形態である。地域の風土や食材の良さを、すしを通じて生活者に伝えることを目的としている。こうした思いから、「湾椀すし企画」は時代の変化に対応しつつ、その土地の食材を活かし、新たな郷土すし文化の創出を目指して生まれた。

湾椀すしイメージ

湾は地形や魚種、文化が地域ごとに異なり、その奥深さが魅力である。湾とすしの魅力を融合させ、新しいすしの未来へとつなげることで、日本全国の湾およびすしをとおし、食文化や自然の恵み、風土、味を知ってもらいたいという願いが本企画の出発点である。
また、海の恵みは山の恵みとつながっているため、湾椀すし™は湾で獲れる魚介類だけにとどまらず、山の幸や地域に根差した食材・食品も含め、一つのお碗の中で味わえる料理と位置づけられている。

湾椀すし™の定義は以下の通りである。

一、その地域の湾で獲れる魚介を中心に用いた「新しい郷土のすし」であること。
一、その土地の食文化を反映する調理や加工が施され、その地域の食文化を映し出すものであること。
一、海の保全と関わりが深い山(陸)の食材(野菜や果物など)も使用していること。
一、椀で、すし飯をつくり、そのまま手軽に食べられるものであること。

こうして湾と共に、新しい郷土すしとして根付くメニューを創造し、文化の継承と風土の伝承を目指す。湾椀すし™を通じて、子供と大人が一緒に楽しみながら学べるコンテンツや情報を「すしラボ」で発信し、地域とすし文化の発展のために普及活動を行っている。
第1弾として富山湾、第2弾として静岡市の駿河湾の湾椀すしを紹介する。

第1弾 富山湾椀すし ~氷見贅沢盛り~

富山湾

富山湾は能登半島に囲まれた半閉鎖海域で、深い海底谷が沿岸まで広がることから「天然の生け簀」として知られている。この地形によりブリなどの回遊魚が湾内に誘い込まれ、約80張の「越中式定置網」で毎日新鮮な魚が日帰り操業の漁師から水揚げされている。水揚げ場所から市場までの距離が短い生け簀の環境が、魚介の鮮度と美味しさを支えている。日本に生息する約800種の魚介のうち、約500種が富山湾に生息し、その魚種の多様さも特徴である。特に氷見市は全国的に魚のおいしさで著名である。

引用元 : とやま観光ナビ open_in_new

氷見市周辺では魚介だけでなく、氷見牛やねぎ、茗荷、キウイなど野菜や果物も豊富に収穫されている。これらを贅沢に組み合わせたのが「富山湾椀すし ~氷見贅沢盛り~」である。

氷見漁港

この商品は富山県庁、氷見市役所、氷見市飲食店組合、そしてミツカンの担当者たちが試食を繰り返し議論しながら作り上げた。

試食会の様子

目標は2025年10月26日に氷見市漁業文化交流センターで開催される「ひみ食彩まつり」に出店し、税込1,000円で300食を完売することであった。

富山湾椀すし ~氷見贅沢盛り~ 雨の中販売 終了30分前には完売

まつり当日は大雨で客足が懸念されたが、販売は順調に進み、終了1時間前には完売できた。来場者の反応も良好であった。

ステージではミツカンとのコラボ企画「お寿司博士とお酢博士が語る富山の寿司」と題したトークショーが行われ、ここでも湾椀すしの想いが紹介された。
愛知淑徳大学教授の日比野先生は試食後、「うまい!」と評価し、魚だけでなく氷見牛や近郊の野菜と共に食べられる新しい形のすしとして認められた。魚は生食のみならず、南蛮漬けにした加熱魚も取り入れられ、新鮮さと独自性を兼ね備えている。会場には氷見市長や副市長も顔を出し、関心を寄せていた。

西出さんが説明 会場の様子

富山湾椀すし氷見版は「氷見のおいしいものをすべて盛り込み、味わい尽くそう」というコンセプトである。例えば、地元の魚を軽く揚げてぽん酢で漬けた南蛮漬けや、特産の牛肉をバルサミコとキウイで甘く煮た具材を載せている。バルサミコの甘みとキウイのフルーティさは牛肉とすし飯に合い、すし飯はカンタン酢で作られる。彩り豊かな野菜も散りばめられており、魚・肉・野菜を一度に味わえる豪華な湾椀すしだ。


第2弾 静岡駿河湾 しずまえの湾椀すし

駿河湾

駿河湾は日本列島のほぼ中央に位置し、静岡県に属する湾である。伊豆半島南端の石廊崎から御前崎まで約56キロメートルの湾口があり、奥行は約60キロメートル、表面積は約2,300平方キロメートルに及ぶ。最深部は約2,500メートルと日本一深く、富士山の標高3,776メートルとの高低差は6,000メートル以上に達し、壮大な自然のコントラストを生み出している。

海底には湾奥から湾口にかけて深さ1,000メートル以上の峡谷が連なり、これは九州沖を経て台湾まで続いている。こうした急勾配の地形により、陸に近い場所に太平洋深層水を含む三種類の深層水が存在し、これらは低温安定性、清浄性、高栄養性に優れ、多様な海洋生物を育んでいる。静岡県ではこれらの深層水を食品や医薬品など幅広く活用している。


「しずまえ」とは静岡市の前浜で、清水区蒲原から駿河区石部にかけての沿岸地域を指す。ここは「しずまえ鮮魚」の産地として知られ、桜エビやしらすなど多種多様な魚介類が水揚げされる。用宗漁港・清水港・由比漁港の三大漁港で水揚げされた魚介類が「しずまえ鮮魚」と呼ばれ、甲殻類や貝類も豊富である。静岡市は「しずまえ振興計画」を推進し、鮮魚ブランドの力強化と地域経済の活性化、文化継承を図っている。

引用元 : 静岡市HPより open_in_new

しずまえ 漁港のマップ 桜エビ

この地域で、静岡市清水区の清水すしミュージアムを運営するエスパルスドリームプラザとミツカン担当者らが協力し、駿河湾しずまえの湾椀すしを完成させた。この商品では、しずまえの魚介や缶詰、緑茶、みかんジュースなど地元特産を活かしている。

2025年11月1日の「すしの日」に清水区のエスパルスドリームプラザで開催されたトークショーで、駿河湾しずまえの湾椀すしが発表された。

エスパルスドリームプラザトークショー トークショーの様子 会場の様子

駿河湾の湾椀すしの特徴は、すし飯に特にある。すし飯はカンタン酢に特産のみかん果汁を加えたもので、さわやかでフルーティな風味を持つ。そこに冷凍マグロや桜海老など「しずまえ」の魚介や缶詰を載せ、季節により具材が変わるのも楽しみの一つである。さらに特産の緑茶やみかん、わさびも使われ、全体として彩り豊かなすしに仕上がっている。味わう際は醤油ではなく、オリーブオイルと塩をつけることを推奨し、新鮮な食体験を提供している。

駿河湾しずまえの湾椀すし

両湾椀すしは、それぞれの地域の自然と食文化を味わえる新たなすしの形として、多くの人々に親しまれることを目指している。

赤野 裕文(あかの ひろふみ)
山口県出身。広島大学工学部醗酵工学科卒業。1979年、株式会社中埜酢店(ミツカングループ前身)に入社し、食酢の基礎研究やマーケティング、商品開発など食酢に関わるさまざまな分野を担当。2016年、株式会社Mizkanを定年退職し、現在は食酢エキスパート社員として食酢の啓蒙活動を行っている。

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