
鍋奉行の先駆者マッキー牧元さんに教わる!
寄せ鍋とは、
当たり前のことながら料理である。
熱した液体の中で、様々な食材を加熱して
おいしく食べる料理である。
鍋などで煮る料理。「新明解国語辞典」。
鍋を食卓に出しにながら食べる料理
「大辞泉」と、辞書では実に素っ気なく、
いかにも簡単な料理という印象があるが、実は深い。
基本的なことながら、
寄せ鍋はごった煮ではない。
入れた具材が最前の状態で煮えて
おしくいただけ、鍋つゆも濁らず、
おいしい滋味にあふれている。
これが理想であろう。
まず人選だが、気心知れた人、食べるのが好きな人を選ぼう。
そして肝心は、鍋奉行の選定である。これは、鍋に精通した人か料理上手にお願いする。
いなければ、これから書くことをよく読んで、自分が鍛錬しよう。

次に下準備、下拵えである。メンドーに思われるかも知れないが、この下拵えをきちんと整えれば、
もう美味しい寄せ鍋は半分以上完成したと言ってもいいだろう。それくらい大切な仕事なのである。
さあいよいよ鍋の開始である。その前に心得なければいけないのは、火加減。
「煮立たせ厳禁」と心に刻み、沸きたつ寸前を、終始キープする。
煮立たせると、具材のエキスが流失しやすくなる。
次に原則として、鍋に三つ以上の異なる具を入れないことと、
人数分を超える個数を入れないことを心がける。
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鍋つゆを入れて白ねぎと豆腐、白身魚(1人1個分)入れ、中火にかけ、ふたをする。静かに炊き、汁がふつふつと言い始めるのを待つ。
冷たいだしから炊くことで、具材に均一に火が通り、柔らかな食感を楽しめる。
一方沸騰したつゆに入れると、具の表面が固まってしまう。
沸騰前の鍋縁のつゆがゆらゆらと煮立ってきた頃が食べごろである。
ここで最初に入れた具は、すべて食べてしまおう。
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次が二巡目である。
白身魚、白菜、椎茸、えのき茸など好きな具を入れて食べる。
一度に全部入れる必要はなく、何回かに分けて入れる。
えのき茸だけは、入れたら10秒くらいで引き上げて食べよう。
ここでのコツは、具材に火を入れすぎないこと。
煮え上がりをすばやく食べるのが基本である。
白菜の葉は、さっと火を入れる感じで歯ごたえが残っている方が美味しい。
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アクの出るものは最後にもってくる。
海老、春菊、鶏もも肉である、この順番が理想だが、二巡目に入れても良い。
だがどれもアクがでやすいので、最後に入れて食べるのが、鍋つゆを濁らせないコツである。
春菊はサッと炊き、海老は中心にやや生が残る頃合いで、色が変わって、しばらくしたら取り出し(ただし冷凍かつ質が悪そうな時は、十二分に加熱する)、鶏もも肉はしっかり炊く。鍋にカスを残さず、いつもきれいな状態に保つことを目指そう。
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豆腐は揺れて浮き上がろうとする頃合い。
貝は殻が開いたら直ちに取り出す。
白味魚は、膨らんで反ってくる少し手前がベスト。
あと気をつけることは、むやみに箸でいじらないことで、具材を入れたら静かに待つ。うまくなれと念じながら待つ。
具材が加熱されていく様子を仔細に観察し、ベストの状態で素早く取り出す。
できれば、火が入った瞬間のみに箸を入れる。

出来れば炊き立てのご飯を用意し、水で洗ったりはしない。
鍋つゆにご飯を入れ(つゆは沸騰させない)、適度にほぐす。
ご飯の量は、後でふやけるので、やや少ないかなと思うくらいの量がいいだろう。
2~3分して米が膨らんで汁を吸ってきたところを見計らい、溶き卵でとじる。溶き卵は溶きすぎない。やや白身が残る感じがいい。
そして細く卵液が落ちる容器(片口など容器の一部が細長い注ぎ口になっているもの)があれば、高い位置から注ぐ。最初は鍋の真ん中で、それから鍋の端へと螺旋を描くようにする。
もし容器がなければ、穴開きお玉を通して雨のように入れてあげると、満遍なく注げる。
そして火を止め、蓋をして30秒。蓋を開けたら、柚子のみじん切りを散らし、よそう。

マッキー牧元
1955年東京出身。立教大学卒。
㈱味の手帖 取締役編集顧問 / タベアルキスト / 食ジャーナリスト
年間外食数600食 全国・世界中を日々飲み食べ歩き、雑誌、Web ラジオ、テレビなどでリポートする。2012年春より現在の仕事。