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(15)ネギトロの起源

「トロ」はもともとマグロの脂身部分のことを指し、冷蔵技術が発達する前は廃棄されていたものである。昭和になってからトロが食べられるようになったとはいえ、切った余り身のところは商品にならず、30年代後半になっても、賄い食に手巻きずしの芯にして食べられる程度であった。それが、そこにネギを加えることによってマグロ特有の脂の強さが消えることがわかり、ネギトロはすしダネとして人前に出るようになる。次第にその巻きずしや軍艦巻きが知られるようになると、ネギトロは回転ずし屋の流行にも後押しされて、1990年代には全国で人気ナンバー1の巻きずしの具材に輝いた。

さて「ネギトロ」の語源であるが、トロのすしに刻んだネギをまぶしたもの、という説が一般的である。ところが時代が下がると、実際にはトロではなく、たとえば赤身、時には中落ちなどの切れ端部分を叩いて「トロ」と称する売る者が出てきた。さらには、昭和60年初頭。あるメーカーがマグロの中落ちやすき身などの切れ端をミンチにし、油脂を合わせたものを開発して「ねぎとろ」の名で売り出した。これがヒットして、東京・築地では大ブームとなったのだが、反面、「ネギがないぞ」「マグロの脂身はどこにある?」といったクレームが出ることにもなった。しかし、ネギがなくてもトロじゃなくても「ネギトロ」のすしは存在し、世の事情を無視するかのように広がっていった。

一方で「ネギトロ」の「ネギ」は、野菜のネギとは無関係である、とする説もある。マグロをおろすと皮や中骨には、まだまだ食べられる肉がついている。それをスプーンでこそぎ落として取る。当然、そうして取った肉は一塊ではない上、トロにも似た形状をしているのだが、この「こそぎ取る」ことを「ねぎ取る」「ねぎる」ともいう。ゆえに「ネギ取った、トロに似たマグロ」を「ネギトロ」というのだそう。

どれが正しいのか、よくわかっていない。


日比野 光敏(ひびの てるとし)
1960年岐阜県大垣市に生まれる。名古屋大学文学部卒業、名古屋大学大学院文学研究科修了後、岐阜市歴史博物館学芸員、名古屋経済大学短期大学部教授、京都府立大学和食文化研究センター特任教授を歴任。すしミュージアム(静岡市)名誉館長、愛知淑徳大学教授

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