納豆菌研究で初の「農芸化学技術賞」を受賞

ミツカングループは、2013年3月24日、「納豆菌の系統的育種による商品の差別化と品質向上」で、
日本農芸化学会・農芸化学技術賞を受賞しました。

受賞テーマと評価ポイント

受賞テーマ

  • 納豆菌の系統的育種による商品の差別化と品質向上

評価ポイント

  • 1.低臭納豆の開発、柔らかい納豆の開発
  • 2.納豆の基本品質の向上
  • 3.ビタミンK2高生産納豆菌の開発と機能性検証
  • 4.各種納豆の商品化

当社では、1978年の「醸造酢の新生産技術と利用法の開発」、2007年の「食酢の健康機能とおいしさの解明に基づく新飲用黒酢の開発」に続く3回目の受賞です。また、納豆菌の研究分野では、初の受賞となります。今回はこの技術力の中核である当社の「中央研究所」の概要と、「今回の受賞テーマが持つ価値」を、研究に携わる社員の声を通してご紹介したいと思います。

将来の競争力につながるものを
自社でつくるところに
企業の継続的な成長はある

中央研究所 副所長
大島 芳文

※部署名・役職・内容は掲載当時のものです

中央研究所の役割は、私たちの技術の強みを活かす場面を見つけ、業績向上に役立つ「技術のシーズ」を創り出し、貢献していくことです。世の中の変化に対して適応が必要なとき、変化をチャンスと見て挑戦するときが、その場面になりますが、今後、環境の変化は、より大きくなる一方ですから、ますます、その役割は重要になってくると思っています。

当社の研究開発のあゆみを振り返ってみても、原料調達が厳しくなったとき、工業生産技術が振興して競争が激しくなったとき、消費者の安全・健康への関心が高まったとき等々、変化を捉えていち早く技術の打ち手を繰り出し、変革と挑戦を支えてきた軌跡が確認できます。

3回目の受賞となる今回は納豆の研究で受賞することができました。食酢で培った発酵醸造や微生物育種の技術の強みを活かし、当社にとって新規事業となる納豆事業の成長に関わりながら、納豆菌研究領域も強みのある技術に育ってきたと思います。今回、実業を通して取り組んできた一連の活動が評価いただけたことは、とてもうれしく思っています。

技術を外部から取り入れて迅速に問題解決していくことも大切な視点ですが、先の変化を見据え、将来の競争力を生む独自の技術を創り出し、同時に、得意な技術を磨いて強くしていくことは、メーカーである当社の継続的な成長には必要な視点であると考えています。上手く行かないことも多いですが、日々、トライ&エラーを繰り返しながら挑んでいます。

ミツカンの研究開発の歩み

1942年 中埜生化学研究所(中央研究所の前身)設立
1954年 食酢の本格的ビン詰め化スタート
1978年 農芸化学技術賞受賞 「醸造酢の新生産技術と利用法の開発」
2000年 においを抑えた「におわなっとう」開発
     ビタミンK2を向上させる豊富に含む「ほね元気」開発
2002年 酢酸菌のゲノム解読を完了し、世界へ初めて発表
2005年 酢酸の血圧低下作用を活かした食酢飲料「マインズ<毎飲酢>」開発
2007年 農芸化学技術賞受賞 「食酢の健康機能とおいしさの解明 に基づく新飲用黒酢の開発」
     新食感の「超やわらか納豆 とろっ豆」開発
2013年 農芸化学技術賞受賞 「納豆菌の系統的育種による商品の差別化と品質向上」

「納豆菌」の個性に粘り強く向き合い、
消費者が求める「納豆のある暮らしを」を
育んでいく

中央研究所 主席研究員
竹村 浩

※部署名・役職・内容は掲載当時のものです

今回の受賞は、「納豆の気になるにおいの発生を抑える」、あるいは「ビタミンK2を豊富に含む」といったそれぞれ個々の個性が際立った納豆菌を独自に開発し、それを商品化につなげたことはもちろん、そういった差別化商品を納豆ブランド「金のつぶ」シリーズとして展開し納豆需要を喚起してきたこと、さらに納豆という食品そのものの品質向上にも同時に取り組んできたことにも高い評価をいただきました。つまり、一つの商品の開発物語で終わらない、ミツカンの納豆事業ストーリーが賞をいただけたと言えるかもしれません。

当社が納豆に本格参入したのは1990年代後半のことで、後発企業です。いわば差別化商品を生み出すことが納豆業界で勝負する必須条件。目を付けたのは、納豆菌の自社開発です。実はもともと納豆業界では、菌は原料の一つという捉え方をしており、納豆菌の製造販売業者から買うのが通例で、自社製品に合わせて菌を開発するという発想はあまりありませんでした。当社は長年、食酢メーカーとして微生物の育種に取り組んできましたから、納豆菌の開発は、ある意味、我々の使命のようなものだと感じました。

「におわなっとう」の開発では、納豆の気になるにおいの原因が、それまで業界の通説だったアンモニア臭ではなく、実は低級分岐脂肪酸だということを解明。約2年をかけ、2万個もの納豆菌の中からにおい成分の発生を大幅に抑える菌を見つけ、さらに納豆としてのうまみや糸引きは従来のままという納豆菌を開発したことが、消費者にもはっきりと違いがわかる“低臭納豆”として商品化する道を開きました。

納豆業界初の「特定保健用食品」になった「ほね元気」は、「納豆=健康食品」というイメージはあっても、それを科学的かつ具体的に証明し商品化したものはなく、その道を開こうと取り組んだものです。カルシウムが骨になるのを助ける骨たんぱく質の働きを高めるビタミンK2は、納豆に多く含まれ、そのビタミンK2をさらに一般的な納豆の1.5倍以上つくりだす新規納豆菌を開発。健康機能を科学的に証明し、「特定保健用食品」というお墨付きを得て市場に送り出すことができました。

さらに、「超やわらか納豆とろっ豆」は、やわらかい納豆がつくれる菌を発見し生まれた製品。食感という点で、従来の納豆の概念からはかなりはみ出し気味でしたが、新たな切り口として、どちらかというと冒険をした商品。それが結果、幅広い年代に受け入れられる商品となり、また新たな道を開けたとうれしく思っています。

一方、当研究所では、こういった差別化した納豆商品を生み出すだけでなく、食品としての基本品質の向上を図ることにも粘り強く取り組んできました。例えば、常温で長時間放置するなど、保存状態が適切でないと、ストラバイトやチロシンと呼ばれる成分が結晶を生成し、品質劣化を引き起こします。これら結晶は、「シャリ」と呼ばれ食感を損ねたり、白い粒子として表面に現れたりします。そこで劣化を引き起こすこの2つの成分に加え、異臭とされるアンモニアの発生を抑制する納豆菌の改良を行ったのです。現在、この技術を、順次、各商品に施す作業を進めています。今後も、品質を高く安定させつつ、それぞれの特徴が際立った商品を市場に届けたいというのが私たちの思いです。