内臓脂肪とは?
肥満気味の方の内臓脂肪減少を助けるお酢の効果
お酢には、毎日継続的にとることで肥満気味の方の内臓脂肪を減少させる効果があるという論文が報告されています。
多山賢二先生に、内臓脂肪とは何か、内臓脂肪と肥満の関係等について詳しくお聞きしました。
執筆者
多山 賢二 先生
1980年 山口大学大学院農学研究科修士課程 修了、1993年 東京大学 博士(農学)取得、2022年に広島修道大学健康科学部健康栄養学科の教授を退任し、現在は県立広島大学などの大学・短大の非常勤講師を務める。食酢の製造に用いられる酢酸菌や食酢の製法・品質に関わる研究を45年間、食酢の健康機能に関する研究・調査を25年間、続けている。
1. 内臓脂肪とは?
1. 内臓脂肪とは?
内臓脂肪とは、腹腔内の腸間膜、つまりおなかの臓器の周囲に蓄積した脂肪のことで、体のエネルギーが不足した際に素早くエネルギーに変換される脂肪のことを指します。
肥満の人がダイエットを行うと優先的に減少するのが内臓脂肪であり、上半身にこの脂肪がついた肥満の方がダイエットをすると、おなか周りのサイズが最初に小さくなるのは、内臓脂肪がおなかに多く存在することを証明しているようなものです。
内臓脂肪の過剰蓄積は健康面で広範囲に悪い作用を及ぼすことになります。
2. 内臓脂肪と皮下脂肪の違い
2. 内臓脂肪と皮下脂肪の違い
我々人間は、食事後の余ったエネルギー源を脂肪として体内に貯蔵していますが、分解しやすい内臓脂肪と、分解しにくい皮下脂肪が存在します。皮下脂肪としての貯蔵容量が少ない人の場合は、内臓脂肪が貯まりやすいとされています。
女性の場合、女性ホルモンの影響によって、皮下脂肪を増やすことが可能ですが、男性の場合、皮下脂肪を増やしにくく、内臓脂肪が多くなる傾向が指摘されています。
病気の程度と相関するのは、内臓脂肪の量であることが明らかになっています。
3. 内臓脂肪の蓄積と肥満の関係について
3. 内臓脂肪の蓄積と肥満の関係について
1万年以上前、人類は狩猟をしながら移動生活を行っており、獲物を追いかけ、運動せざるを得ない状況であったため、肥満の人はいなかったと言われています。その後、農耕や牧畜が始まり、食糧の保存が可能になり、肥満になることができました。
本来、充分に食べて肥満できることは、人間が生き延びるための方法でした。一方、死亡率の視点で見た場合、太り過ぎに加えて、やせ過ぎも好ましくないことが明らかになっていますが、現代においては飽食と運動不足が肥満を助長しました。
日本では、体重(kg)を「身長(m)×身長(m)」で割り算して得られるBMIが25以上を肥満と判定しています(※)。
(※)日本肥満学会 肥満度分類 肥満(1度)以上に該当する旨を示す。ただし、肥満(BMI≥25.0)は、医学的に減量を要する状態とは限らない。
しかし、特に男性ではBMIが内臓脂肪面積を反映しない例が指摘されてきました。
そこで、内臓脂肪面積と相関が高い腹囲が注目されるに至りました。
現状では、女性が男性よりも皮下脂肪が多いことを考慮し、メタボリックシンドロームの判定に用いられる「へそ周り」の基準は、日本人では男性85cm・女性90cmとなっています。
肥満には、下半身に脂肪がつく「皮下脂肪型肥満」と上半身に脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」があり、前者は洋ナシ型肥満、後者はリンゴ型肥満とも呼ばれます。
食事後の余ったエネルギー源を内臓脂肪などに貯めた「好ましくない肥満」は、CTなどの機器検査以外に、空腹時の血液を用いた肝機能マーカーの数値や中性脂肪の値でも判別できるとされています。
4. 内臓脂肪蓄積の原因およびそれによる影響
4. 内臓脂肪蓄積の原因およびそれによる影響
人間の体内では、脂肪細胞に貯蔵していた脂肪を分解させ、生命維持に必要なエネルギーを作り、体温維持のための熱を発生させており、食事から摂取した栄養を有効に貯蔵するために脂肪細胞は存在します。
例えば、デンプンを摂取し、分解して得られたブドウ糖は、肝臓でグリコーゲンに変えられて貯蔵されますが、多くは脂肪に変えられて脂肪細胞に中性脂肪の形で貯蔵されます。
食事をしていない時や睡眠中は、エネルギー源が入ってこないため、最低限のブドウ糖濃度を維持するために、肝臓ではグリコーゲンを分解し、脂肪やタンパク質を原料としてブドウ糖へ変換することで、ブドウ糖を常に供給している一方で、脂肪細胞では、中性脂肪を分解し、エネルギー源や熱源となる遊離脂肪酸を提供しています。
しかし、糖質や脂肪の過剰摂取によるカロリーの供給過多、食物繊維の摂取不足、間食、早食い、欠食、遅い時間帯での夕食、腸内細菌叢の乱れ、有酸素運動の不足などが続くと、内臓脂肪が蓄積され、食事後の余ったエネルギー源をため込み、内臓脂肪細胞は肥大化していきます。
この肥大化した脂肪細胞からは、脂肪細胞ホルモンであるアディポサイトカインの中で悪影響を及ぼす因子が多く分泌されるようになり、インスリン抵抗性を生じることになります。インスリン抵抗性とは、インスリンが充分に分泌されていても、インスリンの作用が効きにくくなっており、肝臓や筋肉などへのブドウ糖の取込みが充分に行われない状態のことを指します。
このインスリン抵抗性は、糖尿病、高血圧、脂質異常症、動脈硬化、心不全、脳卒中などの様々な病気を引き起こす共通の原因となります。欧米人と比較して、皮下脂肪へのエネルギー蓄積能力が低い我々日本人は、内臓脂肪の過剰蓄積や、その脂肪細胞の肥大化に特に気をつける必要があります。
5.なぜ、お酢で内臓脂肪が減るのか?
5.なぜ、お酢で内臓脂肪が減るのか?
BMI25以上30以下の日本人が参加した試験結果が5つのグラフで示されています。食酢を含まない対照群ではあまり変化がなかったのに対し、食酢摂取群では、腹部内臓脂肪面積、体重、腹囲、BMI、空腹時の血中中性脂肪の値などが、試験開始時と比較して有意に減少した上に、対照群と比べても有意に低下していました。
「Vinegar intake reduces body weight, body fat mass, and serum triglyceride levels in obese Japanese subjects」(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 73(8):1837-1843 2009)より作成(対象者104名のデータにて)
メカニズムは諸説ありますが、肝臓での①AMPキナーゼ(酵素)の活性化、および②PPARα(転写調節因子の蛋白)や脂肪酸酸化に関与する蛋白の遺伝子発現量の増大が確認されました。①および②により脂肪の燃焼は促進されますし、①によって中性脂肪の蓄積は抑制されます。また、筋肉において上記の肝臓同様のメカニズム(AMPキナーゼの活性化)が示唆され、脂肪の代謝分解が促進されていることが推察されました。
さらには、脂肪組織において脂肪分解遺伝子の発現の活性化が認められ、脂肪細胞の肥大化が抑制されていることも確認されました。このように、食酢に含まれる酢酸は、体内の様々な臓器・組織・細胞に働きかけ、過剰な脂肪を減らす方向に作用します。
執筆に利用した学術論文、総説・解説、書籍の一覧
【学術論文】
1)Yamashita H., Fujisawa K., Ito E., Idei S., Kawaguchi N., Kimoto M., Hiemori M. and Tsuji H.: Improvement of obesity and glucose tolerance by acetate in type 2 diabetic Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty (OLETF) rats, Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 1236-1243 (2007)
2)Yamashita H., Maruta H., Jozuka M., Kimura R., Iwabuchi H., Yamato M., Saito T., Fujisawa K., Takahashi Y., Kimoto M., Hiemori M. and Tsuji H.: Effect of acetate on lipid metabolism in muscles and adipose tissues of type 2 diabetic Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty (OLETF) rats, Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 570-576 (2009)
3)Kondo T., Kishi M., Fushimi T., Ugajin S. and Kaga T.: Vinegar intake reduces body weight, body fat mass, and serum triglyceride levels in obese Japanese subjects, Biosci. Biotechnol. Biochem., 73, 1837-1843 (2009)
4)Kondo T., Kishi M., Fushimi T. and Kaga T.: Acetic acid upregulates the expression of genes for fatty acid oxidation enzymes in liver to suppress body fat accumulation, J. Agric. Food Chem., 57, 5982-5986 (2009)
5)Hattori M., Kondo T., Kishi M. and Yamagami K.: A single oral administration acetic acid increased energy expenditure in C57BL/6J mice, Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 2158-2159 (2010)
6)長岡 芳香、鍵小野美和、藤田紀乃、和田昭彦、松井 寛、大橋儒郁、飯田忠行:BMIと皮下・内臓脂肪肥満によるメタボリックシンドロームの関連、人間ドック, 25, 26-33 (2010)
7)山本弥生、桑尾麻記、武田美作、窪 好美、末廣史恵、末廣 正:人間ドック受診者における肥満と代謝異常の実態、人間ドック, 25, 32-37 (2010)
【総説・解説】
8)松澤佑次:肥満症と脂肪細胞、日本内科学会雑誌, 91, 1105-1109 (2002)
9)難波光義、宮川潤一郎、浜口朋也:インクレチンとメタボリックシンドローム ―GLP-1関連薬剤を用いる糖尿病の新たな予防と治療薬―, 日本消化器病学会雑誌, 102, 1398-1404 (2005)
10)田中 逸:食事・運動療法の効果 ―内臓脂肪蓄積型肥満/細胞内肥満への対策-、日本内科学会雑誌, 98, 731-736 (2009)
11)宮崎 滋:肥満と肥満症「診断と関連検査」、日本内科学会雑誌, 100, 897-902 (2011)
12)吉松博信:肥満症の行動療法、日本内科学会雑誌, 100, 917-927 (2011)
13)門脇 孝:肥満症と糖尿病「肥満症とその合併症」、日本内科学会雑誌, 100, 939-944 (2011)
14)石垣 泰、片桐秀樹:肥満症「病態解明・診断・治療」、日本内科学会雑誌, 102, 895-901 (2013)
15)山門 實:肥満症の診断,ことに内臓脂肪型肥満の診断と「隠れ肥満」について、人間ドック, 28, 492-499 (2013)
16)山下広美:酢酸の生理機能性、日本栄養・食糧学会誌, 67, 171-176 (2014)
17)下村伊一郎:内臓脂肪型肥満の病態と包括的治療を考える「病態と発症機序を考える」、日本内科学会雑誌, 105, 391-395 (2016)
18)松澤佑次:病態解明と診断基準策定のあゆみ「肥満症とメタボリックシンドローム ―病態から治療・管理まで」、日本内科学会雑誌, 105, 1627-1631 (2016)
19)伊藤 裕:腸内細菌と肥満「腸内細菌と疾患」、日本内科学会雑誌, 105, 1712-1716 (2016)
【書籍】
20)伊藤 裕:いい肥満、悪い肥満、発行 祥伝社(東京)(2022)